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居留守も考えたが、玄関から少し入るだけで、縁側に面しているこの部屋が見える構造。変な人だったら早く追い払うのが一番だと菫は歩き出した。
「大丈夫なの? 菫ちゃん。強盗かもよ」
「平和な日本で昼間から強盗なんてどんな確率よ」
近くに置いてあったうさぎのヌイグルミを抱えた由真に呆れつつ玄関へと向かう。
だが警戒してすぐには開けない。
「どなたですか? セールスはお断りです」
戸を閉めたままそう言うと、男性の声が聞こえてきた。
「菫ちゃんかな? 久しぶり。僕だよ、僕。開けて貰っても良い? 海人は仕事だろう?」
まるで振り込み詐欺のような受け答えに一瞬考え込んだが、菫は声の主が誰か気づいた。
その低く渋い声と「海人」の言葉に急いで引き戸を引く。
そこには、六十代の紳士と呼ぶに相応しい男性の姿。
このうだるような暑さの中、白髪交じりの髪にスーツの上着を手に持ち、爽やかに立っていた。もう片方の手に色とりどりの花束を持って。
「……お義父様」
意外すぎる人物の登場に、菫は茫然と呟くことしか出来ない。だが、すぐに菫は失態に気が付いた。
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