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「うん。あ、お水かお茶貰っても良い? 暑くてかなわないね、今年の夏は特に」
確かに今年の夏は、例年にも増して熱帯夜が続いている。八月が終わる今も残暑が厳しい。
そう言うと、空嗣はハンカチを取り出して額に滲んでいる汗をぬぐう。
「あ、すぐに用意します」
菫は慌てて立ち上がった。
台所へと急ぐ菫を見ながら、由真は空嗣を見た。
「菫ちゃんを泣かしたら海人君を追い出すから」
「おや。ずいぶんと信用がないね。大丈夫だよ、僕は菫ちゃんを気に入っているんだ。海人には勿体ないと思っているよ。また捨てられなくて良かった」
「おじさん、何気に良い人?」
由真のストレートな素直さに、空嗣は声を上げて笑った。
「すぐに人を信じたらダメだよ。甘い言葉で騙す詐欺師も多いからね」
「おじさん、笑ったら海人君に似てる」
「違うよ。海人が僕に似ているの。由真ちゃんも菫ちゃんと目元が似ているね」
空嗣がそう言うと、由真が小さく息を呑み込んだ。
そして困ったように、はにかみながら嬉しそうに笑う。
「そう? 初めて言われたな。そんなこと。でも嬉しい。おじさん、ありがとう」
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