1日常の崩壊

3/6
1152人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
 「退去には一カ月前に連絡を」と言う管理会社の規約を守れず、住まないのに、これから先の一カ月分の家賃を払うはめになった。  これも全部父親のせいだが、父親の死だけが問題ではなかった。問題はもっと大きい。それを思うと、菫は憂鬱で仕方がなかった。  スマホを取り出し時間を確認する。時刻は夕方の六時を指している。  思ったよりも、ゆっくりしすぎたと菫は早足で歩き出した。そのままアパートのゴミ捨て場にゴミを捨て駅へと向かった。  菫が今まで住んでいたアパートは閑静な住宅地。駅からは少し遠いが、自然豊かな場所が気に入ってその場所を選んだ。  だが、実家がある場所はビル群に囲まれた人口密集地。  五年前から土地の価値が一気に上がると開発が急ピッチで進んだ。今は、企業や商業施設が立ち並び辟易するほど人でいっぱいだ。  そんな場所へ住処を移すだけでも、菫は嫌で嫌で仕方がない。  手に持っているのは小さな鞄。財布とスマホ、それに実家の鍵だけが入っている。荷物は先に実家へと送ってしまった。  憂鬱すぎて、この先のことを考えると、自然とため息が出る。  菫が帰りたくない実家に戻る理由。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!