第二章〜空虚から〜

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 十時少し前に目を覚ますと再び看護師がやってきた。車椅子を持っている。 「行こうか」  体調がイマイチなので遠慮無く乗る。  車椅子に乗る人は多いから別に目立たない。  病院とは、唯一『可哀想』だとか好奇の目で見られる事が少ない場所だ。  ガラガラと車椅子で真っ白な床を滑っていく。  子ども病院ということもあり、院内はカラフルだ。頭上からは蝶のオブジェが、壁には簡単な遊具が取り付けられている。  場所によっては絵本を読む部屋もあるし、プレイルームも多く存在する。  一番人気なのは鉄道の形をした大きな遊具で、壁一面宇宙のデザインが施されている。『銀河鉄道の夜』を幼く再現したらこうなるだろうな。僕はこの本が大好きだ。銀河鉄道に乗って遠いところに行きたい。  ──どうせ、死ぬのだから。  そんなことを考えながら蝋人形のようにぼうっとしていると、いつの間にか待合室の前にある受付に到着していた。 「診察券と検査の予約した用紙をお願いします」  僕は膝の上のファイルを差し出した。 ファイルは一般的に売られているのとは少し違う。ぱっと見た感じは普通のクリアファイルだが、診察券を入れるポケットが付いている。そしてご丁寧にも金色の文字で病院名が刻まれている。 「ありがとうございます」  クリアファイルの中の用紙は無くなっていた。受付の人が受理したのだろう。  僕は再び看護師に車椅子を押されて、待合室に入った。  ドアは開放されていて、上の方には黄色の丸文字で『K』と書かれた看板が取り付けられている。  看護師は検査室の目の前に止めて「検査まで待っててね」と言い去って行った。  壁にかけられたハートの形の時計を見ると十時になっていた。
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