第二章〜空虚から〜

4/17
前へ
/198ページ
次へ
 病院あるあると言うか、指定された時間より遅くなるのが当たり前である。  暇つぶし用の本でも持って来ればよかった。手持ち無沙汰なので仕方がなく、心エコーの知識をゆっくりと思い出すことにした。  心エコー───心臓の超音波の検査。心臓の動きや、心臓が送り出す血液の量、心臓の構造の異常を見つける。僕のような心臓に問題(トラブル)がある人や高血圧の人に使われる。  今日僕が受けるのは、一般的な二次元心エコー検査だ。「スライス」した画像を重ねて三次元にする。薄く切ったチクワやきゅうりを繋げて元どおりにするようなものだろう。  僕がこんな知識を得ても何にもならないのに、出来たでのカサブタを剥がすように、病気のことを狂ったように頭に叩き込んでいる。その血は止まることを知らず流れ続けていく。  時計を見ると、まだ五分も経っていなかった。  ため息をつき背もたれに完全に身体を預ける。暇だ。  一旦病室に戻ろうにも一人で車椅子を押すと疲れる。心臓が悲鳴を上げてしまうだろう。  次回は暇つぶしの何かを持ってこよう。そう、ため息をついた時だった。 「こんにちは」  突然降ってきた声に驚きて顔を上げる。  そこには一人の女性がいた。彼女は肩からショルダーバックを下げていた。   彼女も車椅子に乗っているから身長が分からない。髪はこげ茶色で肩まで真っ直ぐかかっていた。顔が小さい割には目がくっきりとした二重で唇はとても柔らかそうだった。充分美人の類に入っている。  高校が男子校の僕は女性に対して初心(うぶ)でたちまち赤面しているのを感じた。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加