第二章〜空虚から〜

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 すると、ピンポーンと言う音と共に「律くん、矢澤律くん一番の部屋にお入りください」とアナウンスが流れた。  最近の病院は番号札が多いのだろうけどここは名前だ。  個人情報とかどうなんだろう? まぁ、バレたところで大騒ぎになる前にこの世にはいないだろうけど。  同時に検査室から看護師が来て「律くんだよね?」と言いながら後ろに回り車椅子のロックを外して押し始めた。 「律、終わったら部屋に遊びに来てよ」 「分かった」  姐さんとつい言いそうになるのを堪えた。  それがなんだか面白く僕は一人でクスッと笑い、看護師に不審な顔をされた。  *  広さ六、七畳ほどの部屋には無骨な真っ白なベットが大半を占めている。  その近くには荷物を置く籠と保護者用の椅子があった。その中で一際目立つのが機械だ。機械の横には丸椅子がある。画面はまだ暗い。そこから、大きな太い棒がつながっていた。棒の先端はやや丸い。  車椅子でベットの近くまで動かされた。  「ベットまで移動できるかな?」  「出来ます」  そう言ったが、意外としんどかった。  ベットに横になってると、奥の扉が開いて白衣を着た技師が入ってきて柔和な笑みを浮かべた。背は僕よりずっと高いだろう。  「こんにちは。今日担当をさせて貰う月屋(つきや)です。よろしくね」  月屋さんはそう言いながら首に掛けたネームプレートを掲げた。  ネームプレートには可愛らしいくまのシールが貼られていた。  子供病院だから、働いている人のほとんどは雰囲気を和ませるためかシールを貼っている。僕も検査後のテープとかで『ドラえもん』とかの絵を描かれる。  子供じゃないんだけどな。  「矢澤律です、よろしくお願いします」  「律くんよろしく、じゃあちょっと失礼」
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