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「はぁ……」
目を覚ますと7時前だった。そろそろ夕食の時間だ。
夢の中にも彼女が出てきた事実に驚いた。
僕は彼女のことが気になって仕方がないのだろうか───頭の中を横切る疑問に慌てて首を振った。
まだ一度しか会っていないのに。ほとんど相手のことなんて知らないのに……
なぜ、こんなに気になるのだろう……
まるで、恋する中学生じゃやないか……
……ん? 恋する……て、まさかまさか。頭の中が混乱している。
こんなこと体験したことがない。
身体の中をムズムズとした感覚が渦巻く。
叫び出したい。
でも、僕はもう死ぬ。人を好きになれる資格がない気もする。
「入るよ」
反射的に目を向けると夕食を持ったスタッフだった。
無意識にがっかりとした気持ちが顔に現れていたのだろうか、スタッフは苦笑した。
「なに僕の顔見て落ち込んでるの」
「……いやぁ……」
『彼女じゃなかった』なんて口が裂けても言えない。
スタッフは再び笑みを浮かべて手際よくご飯を机に置いた。
トレーには白米、ほとんど味がしない味噌汁、醤油がかかっていない冷奴にやはり味がしない鮭が綺麗に乗っていた。
この病気塩分制限がキツい。今は幸い水分制限はそこまで厳しくないが……
入院したての頃は水分制限がかなりキツかった。
「食後に飲んでね」
スタッフがガサガサと大きく僕の名前が書かれた袋から薬を取り出して、水を添えた。その薬の数は十個に登る。
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