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彼女はカテーテルを揺らしながらニッと笑った。
「私さ、後半年しか生きれないの。原因不明の病で、症例が少ないんだって。主に心臓が駄目だから人工心臓入れてるけど、もう気休めなんだって。移植は身体が耐えられないらしい」
さっきまでの笑みとは違ってつまらなそうで、投げやりだった。
僕が、余命宣告を受けた時と同じ感じだ。他人の悲劇を語るナレーターのようなもんだ。
でも、彼女の話は、ズン、と頭が重くなるような衝撃を受けた。
彼女も心臓になんらかの問題がある。僕自身が心臓病になった時よりも、何故か理不尽に感じて虚しくなった。
「……僕も」
何か言わなきゃ、と思って咄嗟に出たのがこれだった。
「拡張型心筋症。近いうちに人工心臓入れるけど、ほとんど変わらないかもしれない。余命半年」
スマホに内蔵されているアシスタント・siraの音声のような声で、機械的に読み上げた。こんなの、慰めにも励ましにもならないのに、言わずにはいられなかった。
そんな自分の愚かさに情けなくなって涙がこぼれそうになる。目を瞑っていると、彼女は微かに笑った気がした。
「仲間じゃん」
「……まぁね」
「話戻していい?」
「……うん」
上半身だけ起き上がる。視線のやり場に困ってカテーテルを指で触った。
彼女はつまらなそうに微笑んだ。その微笑みは色っぽさを感じるものだった。
「ともかくよ、私は死ぬの。近いうちに。で、私ってなんで生きてるのかなぁって思ったわけ」
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