第二章〜空虚から〜

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『彼氏になって欲しいの』  その言葉を何度も何度も反芻する。 「えー!? お姉ちゃん、律兄ちゃんと付き合うの!? 彼氏彼女!? リア充!? テレビで見るバカップル!?」  悲鳴をあげたのはなぜか結城くんだった。  さっき僕が発作を起こしてからずっとカーテンを開けて聞いていたのだろうか……って! 「えー!? じゃなくて! なんで結城くん聞いてるの!? 恥ずかしいじゃん! てか、色々誤解してるし……!」  あわあわと彼女が悲鳴を上げた。 「ちょっと! 二人とも静かに! 看護師さん来ちゃう!」 「何悠長なこと言ってるの! 告られたの律でしょ! 本人がなんで落ち着いてるの!? 私なんて顔から火が()そうなに!?」 「二人が騒ぐから騒げないよ! 騒いだからうるさいわ!」 「ねぇねぇ律兄ちゃんいつデート行くの!?」 「何突っ込んでるの! で、で、デート!? 恥ずかしいぃー!」 「うるさいよ!」  ぎゃあぎゃあと騒いでいると看護師長の佐竹(さたけ)奈々(なな)先生が飛び込んできた。 「どうしたの?」  結城くんは満面の笑みを浮かべた。 「律兄ちゃんとお姉ちゃんカップルだって!」 「え、いつから付き合ってたの!?」  何故か佐竹さんも嬉しそうに結城くんの肩をバンバンと叩きながら尋ねた。 「結城くん言わないでー!」 「さっき。彼氏になってほしいの、だって!」 結城くんは『彼氏になって欲しいの』を彼女の声に寄せて言った。
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