第二章〜空虚から〜

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「言わないでー!」 「諦めて、言ってるよ」  ぎゃあと悲鳴を上げる彼女にそういうと、佐竹さんはニヤニヤと笑った。 「遠藤(えんどう)ちゃんやるぅー」  佐竹さんは彼女の上の名前で呼んだ。  他の人は下の名前で呼ぶから、彼女が名前を嫌っていると知っているのだろう。 「それより、三人とも落ち着いて。呼吸が乱れるよ」  彼女は不満そうにしていたが、僕らは心臓に問題があるので、興奮しないよう、大人しく呼吸をした。  泣いたり激しく感情が乱れると心臓に負担を与えてしまう。  ようやく落ち着いた頃ちびっ子が顔を覗かせてきた。  まるでブレーメンの音楽隊だ。上から、七瀬(ななせ)(たく)三浦(みうら)波留(はる)鈴木(すずき)(まこと)青影(あおかげ)りん。年齢順でりんが最年少。そう言っても拓は小学3年生だけど。  ───りんを除いてみな、心臓病だ。 「拓くん、波留ちゃん、誠くんに、りんちゃん何してるの?」  彼女が笑っていった。でも、目元は笑っていない。 「すみませんー」  へらへらと拓が笑いながら言った。 「ねぇねぇお姉ちゃん、律にぃにと付き合うの?」  無邪気に尋ねたのはりんだ。 「なんで律お兄ちゃんにしたの?」  続けたのは誠だ。  波留も小さい声で続けた。 「なんで……りつちゃ……?」  波留はおそらく、『なんで律ちゃんにしたの?』と言ったのだろう。波留は僕に限らず、みんなことをちゃん付けで呼ぶ。 「言わないよっ」 「えー、ケチ」 「誰がケチなの?」 「すみませんー」  そして僕らは顔を見合わせてご飯の回収が来るまでずっと笑っていた。
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