第三章〜桃色〜

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 おずおずと足を部屋に踏み入れる。  彼女はベットを起こした。僕らが使っているベットはリクライニング機能付き───新幹線や車の座席のようなものだ。彼女のベットはずっと僕のより柔らかそうだけど。  カーテンが風に揺られ、彼女の髪も爽やかに揺れた。彼女はなんとも思っていない風なのかもしれない。  でも、僕にとっては清涼飲料水の広告よりも爽やかに感じた。そして、それは一枚の絵のようで思わず、僕は息を呑んだ。 「律、そこに座って」  入り口で茫然と立ち尽くす僕に彼女は笑いながら告げた。  彼女に言われた一人がけのソファに腰掛ける。シックな黒で革張りのそれは、一度座った者は離さない魔力があり、柔らかなジェルのように僕を包み込んだ。 「はぁー」  彼女は目元をぬぐい、やっとこちらを見た。 「律おはよう」 「おはよう……すごい部屋だね」  異性の部屋をまじまじと見るのは失礼だろう。だが、彼女の部屋はあまりに豪華で眺めてしまう。 「うん」  彼女は大して嬉しそうではなかった。それどころかつまらなそうで、嫌そうな口調で続けた。 「親のエゴだよ。若くして、原因不明の難病で死んじゃう。可哀想って。最期はいいところで逝かせてあげようって。なのに家には帰らせないの。何かあったら怖いから、大変だからって。だってさ、この病室に移ってから一回も親来たことないんだよ。表面だけ。それだったら現金くれっつーの!」  彼女は最後笑いながら言っていた。  だが、それは決してジョークではなく、一番の本音だろう。僕だって、そう思うのだから。 「僕なんて余命は伝えられたのに病名言われなかったんだぜ」 「え、嘘」 「かわいそうって。言われずに身体切られたり副作用とか発作あるほうがキツいっつーの」  彼女を真似て軽く、でも本音を言うと、分かる分かる、と彼女はうなずいた。
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