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「どうしたの?」
突如黙りこくった僕を見て彼女が首を傾げた。
僕はそっと頭を振った。
「なんでもないよ」
「そっか」
彼女はまだ訝しげだったが素直にうなずいた。
彼女からそっと目線を外し、大きな窓から外の景色を見た。
目下に広がる大通りと小さな商店街。
数分おきに来るバスがやってきた時、ノックがなった。
朝ごはんだ。
「澄川さんありがとう」
彼女は食事を運んできたスタッフに礼を言った。
「あ、律くんここにいたんだね。ご飯まだ置いていないから部屋に戻って欲しいな」
「ごめんなさい。今行きます」
僕は名残惜しく思いながらソファから腰を上げた。
その瞬間、発作の前兆のようなものが僕を襲った。うまく言い表せないが、胸がつかえると言うか、ざわざわすると言うか……とにかく、違和感を覚えた。
「うっ」
胸元を拳でトントンと叩いた。
「大丈夫?」と彼女と澄川さんが尋ねる。片手で『まって』の姿勢をした。
二分ほど経つと落ち着いた。よかった、薬を使うほどにならなくて。
手を下げて微笑むと二人はほっとしたように息を吐いた。
その後、念のために病室から運んできてもらった車椅子で部屋に戻った。
その間、ただ椅子から立ち上がる、と言う仕草だけでこう言うことになる自分に苛立ち、涙がこぼれそうになった。
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