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症状などをインターネット検索にかけると、簡単に恐ろしい検索結果がずらずらと出た。挙げ句の果てには、予測変換に『余命』と言った残酷な文字があった。なんとなく、病名の検討はついた。
そこから、僕の動きは早かった。
高二になってまだ一回も行っていない高校の退学を、母さんの制止を振り切り手続きした。
友人も少なかったし、クラスでは空気の存在だ。別に居なくても変わらない。
──僕は、生きることに無頓着になった。どうせ死ぬのだから、と。
母さんの嗚咽が少し弱まった。さっきのが台風や夕立だとすると、今はシトシトと降る梅雨の雨だろう。陰鬱で、煩わしい。
僕は無表情で医師を見据えた。
「病名を教えてください」
母さんが目を見開いた。その目は真っ赤だ、怖いほどに。
「律っ!」
悲鳴のような声が上がった。耳に響く。うるさいなぁ……まったく。
「どうせ死ぬんだ。知ってもいいだろ」
投げやりにそう言って窓を見た。
窓からはイチョウ並木が見えた。黄色のアーチと絨毯のもとを歩く女の子は点滴をぶら下げていたが、楽しそうに両親と歩いている。
時計の秒針がやけに大きく聞こえた。
針が「3」の文字盤を通り過ぎた頃、医師がようやく口を開いた。
「律くんにも話す義務はあると思います」
「でも……律はまだ……十七歳なんですよ? こんな……苦しい想いさせたくない……」
「僕は子供じゃない。それにおかしいよ。余命だけ告げてきてさ」
ピシャリというと母さんは両手を顔の前に置いておいおいと泣いた。
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