第一章〜残りの時〜

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 エレベーターが静かに僕のいる三階に来て扉が開いた。  乗り込むとすぐに後ろから中学生くらいの男女のカップルらしき人が続いて入ってくる。  女子はニット帽をかぶって点滴をぶら下げているが、男子はそうではなかった。 「日向(ひなた)、退院したらどこに行こうか?」  日向と呼ばれた少女は嬉しそうに応じた。 「カラオケとか動物園とか、遊園地とか!」 「おう、全部行こうな」  すぐに僕の降りる階に着いた。  この病院は十階建てだが、最上階はレストランだ。  カップルはそのままだった。お昼どきは過ぎている。僕の一つ上の階である九階の病室に向かうのだろう。  病室へ向かいながら、ネットで得た病気の知識を反芻していた。  拡張型心筋症————心臓の筋肉がペラペラに薄くなる病気で難病指定されている。僕の場合、原因はいまだハッキリしないらしい。  軽度の場合は入院しなくていいらしいが、僕の場合は違う。  治療法は、移植や人工心臓、投薬治療など。  前、僕が受けたのはどれか分からないけど、いずれ人工心臓の手術はやるんだろうな。移植はおそらく莫大な資金がかかるのだから、母子家庭のうちでは無理だ。小さい妹もいるのだから。  僕は病室について、水色のベッドの周りのカーテンをくの字に閉めた。二人部屋の窓際が僕のテリトリーで、おそらく最期を迎える場所だ。  窓からの景色は住宅街が広がっている。T県S区生育医療病院————僕のいるところ。よく、ドラマなんかの撮影にも使われていて、少し前には、日本でブームを起こしたラクビーのドラマの撮影地にもなっていたのだ。  この病院は普通のいわゆる大学病院とは違って子供だけの病院である。
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