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図書室の出入り口から、生徒たちがちらほら出てくるのが、窓の景色から視線を逸らさなくても、なんとはなしに気配でわかる。そう。今は昼休み終了五分前。
「そろそろ教室に戻ったほうが良くない」
ボロいクルマを見つめながら言う。
ミサキは私の言葉にゆっくりうなづいた。ミサキは動かない。動かないまま、ミサキは言った。
「あんなボロいクルマの助手席に乗る女なんか、いないよねえ」
うーん。そうでもないんじゃない?
持ち主のナナオカケル自身は、人として奇妙なところはないし、どころか生徒のほとんどから慕われてる。彼を大人の異性として意識しているならば、ミサキはむしろ過当競争に身を投じていると言えなくもない。だからこそ、喉まで言葉が出かかかって、私はそれを引っ込める。
みんな、ノリタガッテマスヨ。ナナオカケルのクルマの助手席に。
出かかった科白を引っ込めながら、私は窓の景色に背中を向けた。
「いないと思う、よ」
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