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「ナナオのクルマってボロいよね」
ミサキが言った。
「だね」私はうなづいた。
否定はしない。担任教師ナナオカケルの愛車がスクラップ寸前なのは紛れもない事実だから。
校舎二階。廊下の窓から見おろす景色はいつもと少しも変わらない。
今、私とミサキが一緒にいるのは、図書室前の廊下。ミサキのお気に入りの場所。教師や事務職員たちの通勤車両置き場を見おろせる窓が、ここにあるから。
昼休みになると、ミサキはここに来る。けっこうな頻度で私もミサキと一緒にここにくる。ミサキはいつも同じようにボロいクルマを見おろしながら、窓枠に腕を置いて頬をうずめる。これがいつもの日常。これが私とミサキの世界。
「はぁ」ため息。もちろん、ため息するのは私じゃなくて。
「ボロいクルマが、今日も駐車場で浮いている。もののあはれ、よね」
ミサキはきっと、ナナオが好きだ。
そうは思っていても、私はそれを口にしない。
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