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上履きを脱いで、床に散らされた砂をなるべく踏まないように、つま先立ちで歩く。
家に着いたら靴下を脱がないといけない。
グランドから戻る時は、外で砂を叩いてからにしてほしいと思いながら、自分の下駄箱にたどり着いた。
「あ、これ」
運動靴に金魚の折り紙が入れられている。
三角のしっぽの部分には、「私の楽器、とってきてもらえるかな?」と書かれていた。
電気の付いていない音楽準備室で、備え付けの棚に並ぶ、黒い革張りのケースに貼られた名前シールを確認する。
楽器ごとに練習をしている時間なのか、音楽室からは、メトロノームと大太鼓の規則的な音しか聞こえない。
知り合いの部員がいたら、手伝ってもらえたかも知れないのに。
当然だが、部員の名前は親切にアルファベット順になっているわけでもなく、全部の棚を見てまわるのは、時間がかかりそうだ。
肩にかけたままだった鞄を床に下ろした時、ふいに部屋の電気がついた。
「それは、テナーサックス。クラリネットは、そんなに大きくないよ」
腕組みをしたまま、早足で歩み寄ってきた絵里が隣に並ぶ。
膝をつけてしゃがみ込んだ彼女が、肩掛け紐がついたノートくらいの大きさのケース選ぶのを見て、自分が見当違いをしていたことを知った。
「さすが部長、千代李から頼まれてさ」
「うん、わかってる。ついでに楽譜も渡しといてくれる?」
ここに貼ってあるからと、ケースよりも少し大きい黒い表紙のスケッチブックが重ねられる。
貼られた紙の厚さで、ページの半分ほどが扇状に広がっているのが気になったのか、絵里が親指でその部分を押し潰す。
「ありがとう、それじゃあ部活頑張って」
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