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 「それで、千代李は元気だったの?」  午後の受験も終わり、帰りの身支度をして いた私にそう話しかけたのは、隣の席の絵里(えり)だった。  「うん、別に普通だったよ」  「普通ね、相談室に行ったきりなのに?」  ため息と共に、彼女は指先で机の上の楽譜の束を弾く。  部活の練習で使う楽譜だろうか。  音符もろくに読めない私でも、謎の記号がその楽譜を黒く埋める様で、曲の難易度が高いことがわかる。  「コンクール、近いんだっけ?」 「本番はまだだけど、練習は早いうちから始めなきゃね。来週には、新入生歓迎会もあるし」  「そっかぁ、帰宅部にはそういうの無縁だなぁ」  「もう、一叶はのんきでいいよね」  高い位置のポニーテールが、手ぐしでとかされて揺れる。  毎日、きっちりとした髪型をしている彼女の目元は涼しげな切れ長の形をしていて、凛とした真面目そうな雰囲気が、確かに私とは正反対だなと思う。  「うちらはさ、3年でもう最後の年だし、だから気合いいれてやってこうって、そうやって言ってたのにさ、千代李は……」  その先を、絵里は言わなかった。  千代李が、教室に来なくなったのは、新学期が始まって、ちょうど1週間が過ぎた頃からだ。  始業式の日、クラスが発表になった時は、また同じクラスになれたと喜んでいたのに、その週が開けた日を境に、彼女は突然、教室に来なくなった。  
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