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 教室2つ分の広い空間は、思ったよりも無機質で、がらんとしていた。  初めて入った室内を観察しようとしても、何人が並んで勉強できる長机が2つと、持ち手にするところが錆び付いたパイプ椅子だけの空間では、面白いものは見つかりそうにない。  給食のトレーを、千代李の筆箱が乗っている方の机に置き、私はピンクの水玉模様の折り紙が、キャンディーの形に完成するのを待つことにした。  「そういえば、一叶は新曲聴いたの?」  「え?あ、一昨日に配信されたやつのこと?」  「そう、ギターのアルペジオが静かな海みたいっていうか、曲の感じとあってて良いよね」  色白の指が、斜めに折り線をつける。  アイロンを掛けるように、撫でる千代李の指からは摩擦で、キュっと音がした。  給食の準備の時間だというのに、相談室には、騒がしいワゴンが運ばれる音や、授業から解放された生徒がお喋りをする声は聞こえない。 喧騒とした教室とは、別の場所にいる感覚が、2人で秘密のことをしているみたいだ。  「はい、出来上がり。手を出して」  「あ、ありがとう」  言われた通りに作った手の平の皿に、折り紙が渡される。
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