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 彼女がいなくなったというのに、私の日常は、たいして何も変わらなかった。  冷たい風が吹き抜ける一直線の廊下を、足早に歩く。  両手でしっかり支えているはずなのに、緑色のトレーの上に置かれた食器どうしがぶつかって、カチャリと音がなった。  校舎の一階は、春になったというのに相変わらず肌寒い。  もう、冷めてしまっただろうか。  狭いトレーの中心に、並べられているカレーライスを試しに眺めてみる。  平らに盛られた白米には、いつも通りに定番の野菜が入ったルーがまんべんなくかけられていて、見た目には何も変わりがないように見える。  カレーを冷ましてから食べる人もいるようだけど、私は例外なく、食事は暖かいものが好きだ。  この寒さの原因は、きっと誰かが、換気のために学校中の窓を開けて回っているせいだろう。  感染症の季節は終わったのに、受験生は今の季節からが本番だとか、いくらそういった台詞を言われても、やる気の先取りをされているようで、いまいち実感がわかない。 それに、進学校でもない公立の中学校でそんなことを言われても、この地域の学力で受験できる高校なんて、限られているのに。
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