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ダチくんと会わなくてなって3週間が過ぎた。
料理を作りながら、
「ダチくん、辛くてもいい?」
なんて言ってしまってちょっと切なく笑ったり。
でも連絡はしないし、ダチくんからもない。
ダチくんの荷物は減っている気はするけれど、お気に入りのウクレレはまだ置いてあった。ベッドに座ってポロンと鳴らしてみた。少しぬけたような呑気な音がダチくんに似ている気がする。
学生時代にこの部屋で短編映画のプロットを考えながら、
「ねえねえ、どう思う?」
って意見を聞いてくれたことを思い出していた。
卒業制作のシナリオはほとんどここで書いていたなあ。学校やバイトの休憩時間を使って書いたたくさんのメモを、私のパソコンでデータにしていた猫背の背中を思い出す。
仕事から帰ると部屋中に散らばったメモの真ん中でダチくんが寝ていたり。
楽しかったな。
あの何事にも一生懸命のダチくんはどこに行ってしまったんだろう。
ウクレレを抱きしめながら私はやっぱりダチくんのことが好きだと思っていた。でも思い出すのは昔のダチくんばかりだ。それが淋しい。
弾けないウクレレの弦を鳴らしてみる。チューニングができていないどこか乱れた音は、最近のダチくんに似てると思った。
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山下くんは退院して出社できるようになったけれど松葉杖だった。課長に外回りしなくていいと言われたのに、松葉杖で取引先に行っている。お見舞いの意味もあるのかもしれないけれど山下くんの売上は今チーム1位。
誰かの一生懸命な姿を応援したくなるのはみんな同じなんだと思う。
ダチくんと距離を取る選択をしてから、最近の私は今まで以上にダチくんのことを考えているような気がする。
ダチくんが昔に戻ってほしい、あんな風にきらきらと楽しそうに疲れてほしい。時が戻らないかなといつも考えてしまった。
そんな風に同じことを何度も考えつくしたころ、私の中にいつか私はどうだったんだろうと自分を振り返る時間も入ってきたかもしれない。
ダチくんにとって私はどんな存在だったんだろう。
ダチくんを元気づけられる存在だったのかな?甘やかすだけでなくて、そばにいることでダチくんが頑張りたくなる存在だったのかな。
ウクレレは相変わらずずれた音を出している。どうすればダチくんみたいな綺麗なかわいい音になるんだろう?
楽器のことなんてなにも知らないけれど、スマホの検索エンジンで『ウクレレ チューニング』と入力してみた。
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