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Ⅳ
倒れているダチくんの隣りに座り込んで
「ダチくん死なないで!」って叫んでる私を含む一連の映像は〈DACHI-CHAN〉の中で『プロポーズ大失敗』という番組として一般公開されて、チャンネル開設以来の視聴数をたたき出していた。
事故はもちろん企画外、本物のアクシデントだった。
本当はあのカフェに飛び込んできたダチくんが、手拍子の中で私にプロポーズするという企画だった。
私は手術室から出てきたダチくんを、たくさんのお友達の前で泣きながら火がつくほどに怒ったあと、生きていてくれたことにお礼を言った。その様子も彼の後輩の手で撮影されていたけれど編集でカットしてもらった。
病室のドアの前でちょっと溜息をついてから開けると手拍子、また?
でもバラバラで3人くらい? 手前のベッドのカーテンの隙間からリズムを無視して手を叩くおじいさんが見えた。
ばらばらの手拍子を不思議に思いながら、一番奥のダチくんのベッドに辿りつく。まだ手拍子は続いている。
頭に包帯を巻いて、ベッドに座ったダチくんが笑っている。
あの日、頭から血を流しながら、
「アミちゃん、誕生日おめでとう」と言ったダチくんを思い出した。
バラバラな手拍子の中でダチくんが顔いっぱいで笑っている。あの企画を思い出しながらベッドに近づいた私に
「ちょっと遅れたけど僕と結婚してください。アミちゃんがそばにいてくれれば僕はがんばれます!一生退屈させません!」
手拍子が止んだ。カーテンの向こうの協力者さんたちが聞き耳をたてているのがわかる。
「ありがとう。でも、二度と心配はさせないで」
答えた途端、同室の患者さんたちの拍手が包んでくれた。
私に見えていなかったダチくんの一生懸命は、見えている多くの人たちに応援をしてもらっていた。だからあんな映像が撮れたし、たくさんの人に協力してもらったサプライズの準備もできたんだ。
今もこうして同室の人たちにも応援してもらって。
どんなときも実は一生懸命なダチくんを私ももう見失わずに応援していくよ。
++
『プロポーズ大成功!』の映像は〈DACHI-CHAN〉の視聴数をまた更新したけれど、ダチくんはプロ・ユーチューバーにはならず、某映像制作会社で制作スタッフとして働いている。
でも生活拠点ではなくなった彼の部屋では、時々おかしな実験がくりかえされている。
彼のことが大好きな仲間たちと共に。
〈fin〉
2020.4.12
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