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一羽の白鷺が、川面に佇んでいる。
線のように走る柵の向こう側で、それはとてもゆったりと静止しているように見えた。
僕はいま、特急列車にのっている。
4月からの新生活のために引っ越すのだ。
車内はにぎやかな女性二人組と、出張らしいサラリーマン、座席を回して昼酒を楽しむ旅行客。
僕は、最後にもう一度、3年ほど住んだ部屋をきれいに磨いてきたところだ。
少し日が傾いてきた午後、特急列車は菜の花に囲まれた川原にさしかかる。
ランニングとサイクリングを楽しむ人の中に、こちらに向かって手を振る子どもと、その子を抱えるおばあちゃんが見えた。
僕は思わず手を振りかえす。
『相手から見えなくても、振り返す気持ちが大事でしょう』
付き合いたての頃きいた、君の台詞が身体に染みついている。たしか初めて一緒にこの列車に乗った日だった。
優しくてお人好しで、表情がコロコロかわる。
泣き虫のくせに、土砂降りの中でも「もっと必要な人がいるから」とタクシーに乗らないような、そんな人だ。
今後、僕はきっと、君のような尊敬できる恋人とは出会えない。そう思ったから、あの部屋を引き払ったのだ。
これが正しい選択だったと、何年経っても後悔しないだろう。
ぶるぶる、とポケットのスマホが震える。そろそろ目的地へ着く時間だ。
特急列車を降りて、改札へ向かう。都会から離れている街は、平日だからか人がまばらだった。ふうっと息をひとつ吐く。
「おかえりなさい」
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