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腹ペコ坊主、捕まる。
「お坊さん、名前は?俺、正嗣って言うんだ」
「私はですね、リュウカンです…ああ、漢字にしたらこうです」
サッと筆記具を取り出して『隆寛』と書いた。
「寺ではリュウカンですが、普段はこのままでタカヒロです」
「ああ、なるほど…」
中々合理的だな、と正嗣は思った。
「いつもあの駅を使ってんの?」
「そうですね、私は移動に電車を使いますので」
ふうん、と茶を飲みながら隆寛を見た。
「じゃまた会うかも?」
「正嗣さんも最寄りですし、会うかと思います。その時は声かけてくださいね」
ニッコリと隆寛は微笑んだ。
よっしゃーー!と正嗣が心のなかで叫んでいるなんて、気がつかないだろう。
それから何度か、正嗣は隆寛を駅の構内で見かけた。颯爽と歩く姿だったり、ホームで姿勢良く電車を待っている姿だったり。
(うーん、遠くから見てもやっぱりイイなあ)
そんな目で見られているとは気がつかず、たまに正嗣に気づくと、隆寛は律儀にお辞儀をしてくれた。
どうにかまた話をしたいと思うけれどキッカケもなく日々が過ぎていく。
(飲みに誘うわけにも行かないしなあ…)
ため息をつきながら、隆寛に出会えた日はハローワークに行く足も浮足になる。
そんなある日。
隆寛の姿を見つけた正嗣はいつもの如く目で追っかけていたが…
(ん…?)
隆寛の歩みがいつものように颯爽としていない。どことなく遅いし背筋も曲がっていた。少し前かがみになっている姿に正嗣はまた腹減ってんのか?と考えた。
初めて会ったときのように顔色は悪くないようだ。逆に少し赤くなっているように見える。
いずれにせよ、本調子ではないようだ。
(体調が悪いだけなのか?)
気がつくと、隆寛は備え付けのベンチに座って項垂れていた。大きく肩で息をしているのが見える。
(全く世話の焼ける…)
心配しながらも、声をかけるチャンスと思い隆寛の所へと駆け寄った。
「隆寛さん、大丈夫?」
駆け寄ってきた正嗣に気づくと、隆寛は顔を上げる。やはり顔が赤い。切れ長の目も、少しトロンとしていた。
「風邪?顔が赤いし、歩き方もおかしいようだけど」
「あ…、いや大丈夫です…」
小さな声で正嗣に答えた。「大丈夫」ではないことは正嗣の目にも明確だ。
「休んだほうがいいんじゃないの?」
「…」
「俺んちで体を休めなよ、また倒れちまう」
(他意はあるけど、下心はないから!)
また正嗣は心のなかで呟いた。
隆寛は迷いながらも、熱っぽい顔を正嗣に向けた。
「じゃ、お言葉に甘えて…」
(よっしゃー!)
部屋に戻って、正嗣はとりあえず横になるようにと隆寛をベットに体を横たえた。
「すみません、一度ならず二度までも」
両手で顔を覆いながら、隆寛は謝る。
「気にするなって。今日は風邪?顔も赤いし」
目もトロンとして色っぽいよ、と言いそうになって正嗣は言葉を飲み込んだ。いえ風邪ではないんです、と隆寛はそのまま答えた。
「今朝、うっかり抜いてくるの忘れちゃって。疼いちゃって仕方ないんです」
正嗣は手に持っていたお盆を思わず落とした。
「た、隆寛さん、今なんて?ケッコーすごいこと言いませんでした?」
「すみません。引きますよねえ…」
両手を顔から外して隆寛は笑う。
隆寛の話だとこうだ。
かなり性欲が強い体質のようで、毎日抜かないと体が火照って大変なのだという。自分の中でもこれはマズイと思い、朝抜くようにしているが今朝は忙しい上に、寝坊したため、そんな時間がなかった。ゆえに、抜いてなくて疼いて堪らない。
「高校生じゃないんだから、どうにかしたいんですが体質のようで…」
「はあ…」
思ってもない隆寛の告白に、正嗣は固まったままだ。坊主というストイックな職業でありながらそんな体質なんて…
(エロ過ぎるだろーーー!!)
「正嗣さん。大変申し訳ないんですが、トイレ貸していただけませんか」
隆寛はトイレで抜くつもりなのだろう、トロンとした目で正嗣を見つめた。
「…だったら、手伝うよ」
正嗣は横たわった隆寛にそっと近寄った。
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