腹ペコ坊主、腹いっぱい。

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腹ペコ坊主、腹いっぱい。

【正嗣】 隆寛不足だ。 部屋の真ん中でゴロゴロしながら正嗣はため息をつく。最近、法要や葬儀が立て込んでいるらしく隆寛と会えてない。 元々、定休日なんてないような職業だ。夜でも朝早くでも、駆けつけて読経しないといけないし、檀家の都合にあわせてスケジュールを組む。 付き合って分かったことだが、なかなか僧侶は忙しい。 うじうじする二十八歳。我ながら気持ち悪いけど、仕方ない。きっと仕事してないのが悪いんだ。 部屋の隅に置いてある不採用通知。もう見飽きたなあと苦笑いした。 【隆寛】 正嗣不足である。 法要を終えて、カラカラになった喉を茶で潤す。隆寛はふうとため息をつく。 正嗣と付き合うようになって毎朝抜かなくても良くなったが(それでも同年代より回数は相変わらず多い)今度は会えなくて、フラストレーションがたまる。 煩悩だらけだなあ、と頭を振っている遠くからもう一人袈裟をきた僧侶が部屋に入ってきた。 「どうした隆寛、冴えない顔してるな」 剃髪をしていない彼は隆寛と同じ僧侶の良照(よしてる)だ。 「んー、ちょっと」 「そんな顔してたら檀家さんから嫌われるぞ。可愛さだけが取り柄なんだから」 坊主頭をポンと叩かれて、隆寛はちょっとムッとした。良照は隆寛より五歳歳上。子供扱いしたい気持ちはわかるが、隆寛はもう二十八歳。いい歳をした大人だというのに。 【正嗣】 今日は風が心地よい日。桜も満開で、街行く人たちもどことなく浮かれてるように見える。 昼間の街はどことなくのんびりした空気だ。 ただそんな中でも正嗣はハローワークに通う。以前ならそんなに頑張る気力もなかったが、隆寛と出会って以来、真面目に通っていた。 それでも中々職につけなくて背中がどんどん丸くなっていく。 (あーあ、こんなとき隆寛がいたらなあ) 初めは単純に、好奇心だった。朝抜かないと疼いてたまらないと言い出した隆寛を自分がキモチヨクしてみたいと思った。 だけどいまは隆寛の笑顔や可愛らしい性格、少し怒りん坊なところも含めて大好きだ。 出来ることなら一緒に暮らしたいと思っていたが以前、隆寛が親の後を継いで、副住職をしていると聞いたので無理だと思い、出かけた言葉を飲み込んだ。 隆寛がそんな仕事じゃなければ楽なのに。でも坊主だったから出会ったんだ。 「ああもう!」 頭をかきながら、歩いていると袈裟を着た僧侶を見つける。剃髪をしていない。正嗣は剃髪をしていない僧侶には興味がない。それでも、その整った顔をつい見てしまう。黒黒とした髪にはっきりとした二重瞼。身長も高くて、となりの女性たちがチラチラ見ている。少し年上だろうか。落ち着いた雰囲気を醸し出している。 そしてその隣にもう一人ひょこっと顔を出したのは、隆寛だった。黒髪の僧侶ほどではないが隆寛もチラチラ見られている。 (なんだあのイケメン坊主二人組は〜〜!) しかもなんだか仲良しオーラが出ていて近づけない。隆寛が微笑んで話してるのも何だか癪に触る。 【隆寛】 「なあ、向こうから異様な視線を感じるんだが」 良照が小声でそう言ったので、その方向に目をやる隆寛。その先にいたのは正嗣だ。 思わず鼓動が速くなる。来週まで忙しくて顔を見ることすら出来ないと思っていたのに、こんなところで会えるなんて! (ああ、仏様、感謝致します!) 心の中で拝みながら、隆寛はそっともう一度正嗣の姿を見る。が、なんだかいつもと様子が違っている。 惚けたようなぼんやりとした顔をしていたので隆寛は不思議に思ったがやがて頭に浮かんだのは…隣の良照だ。自他ともに認めるイケメン。元々坊主好きの正嗣が見とれないわけがない! 「知り合い?」 良照に言われて、隆寛は頷く。そして隆寛は正嗣から目を逸らして先を行く。良照は慌ててその後を追った。そして正嗣は、明らかに目が合ったのに、逸らされたことにショックをうけてその場で立ち尽くしていた。 【正嗣】 隆寛のアホ。 ハローワークから戻るやいなや、ベッドに倒れ込む正嗣。目の前で恋人がイケメンとイチャイチャしていてしかも、逃げられた。これで落ち込まないわけがない。ベッドの横に投げたスマホ。隆寛にメッセージを入れる気力も無く、枕をひたすらに殴る。 (なんで逃げたんだよ!やましいことでもあったのかよ!) ボスボスと枕に当たる正嗣。そのうちそのままふて寝してしまった。 【隆寛】 「出ない…」 正嗣がふて寝した頃、用事を済ませた隆寛は電話をかけたが繋がらない。あの時咄嗟に移動してしまった。きっと正嗣は気分悪くしているだろう。もっと早く連絡をしたかったのに、中々抜け出せなくて遅くなってしまった。 逃げ出した理由は良照を正嗣に見せたくなかったから。きっと良照に目を奪われるだろう。そんな様子を見たく無くて咄嗟に良照を遠ざけた。 「隆寛、帰るぞ」 良照がうしろから声をかける。ああそもそもコイツが一緒に電車使って行こうなんて言い出すから。いつもなら大きなセダンで寺に乗りつけるくせに! 「もう車直ったの?」 「ああ。あーやっぱり電車はめんどくせよ」 背伸びしながら良照がそう言う。そうですか、と呟く隆寛。 (正嗣、怒ってるんだろうな) 【二人】 それから一週間。正嗣は完全に隆寛の連絡に返すタイミングを失ってしまった。隆寛は何度か連絡したものの、段々とその回数も減り、しまいには無くなってしまう。二人はお互いを思いながらもどうしたらいいかわからない。
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