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すっかり暗くなった外の世界、しかし、地方都市ながらも駅前に建てられた、築十二年のビルの二階に設けられた進学塾には、明かりがついていた。
授業が終わり、誰もいなくなった部屋に二人だけが取り残されている。
一人は、地元の学園に通う二学年の学園生で斗真と呼ばれている。
もう一人はこの塾の講師である正輝であった。
十人ほどの塾生が帰宅すると、当番である正輝以外の職員もいなくなった。
終始、つまらなそうに授業を受けていた彼であったが、全てが終わるとむくりと顔を上げて正輝に話しかける。
「ねぇ、先生」
「ん? どうかしたのか?」
「いつものやろうよ」
大きなため息をついて、正輝が斗真の隣に腰を落ち着ける。
「いつも、それぐらい真面目に聞いていてくれると助かるんだがね」
「えぇ、だって、普通の授業なんてまったく興味ないもん」
お洒落な眼鏡の奥にある瞳が、妖艶な光を発したように思える。
その視線に気が付いた正輝は、一瞬身を引きそうになるが、それを見逃さず斗真はグイっと一気に近づいた。
「ねぇ、いつものやろうよ」
「い、いつものって、簡単に解いちゃうじゃないか……」
「だったら、解かれないそうな問題だしてよ。それとも? 解いて欲しいから簡単にしているのかな?」
ムッとした表情を作る塾講師、手元にある参考書をペラペラとめくり、あるページで指をとめると、彼に見せた。
「これ、解ける?」
チラっと問題を確認すると、今度は斗真がため息をつく。
「これ、三学年の問題だけど」
「だったら?」
負けじと正輝が顔を近づける。
そんな挑発的な態度に対し、斗真は鼻で軽く笑うと正輝の胸ポケットに入っているペンをスッと抜くと、参考書にサラサラと答えを書いていく。
「う、うそ……」
「簡単すぎ、それと僕のこと甘くみすぎ」
おちょくるような表情に、正輝は観念したのか首を小さく横に振るう。
それを確認し、勝ち誇ったように笑いだした斗真。
「今日も僕の勝かな、だから、ね?」
カサっと小さく動き、正輝の胸に顔を埋める。
それを一瞬躊躇う素振りをみせるも、正輝は受け止め優しく抱きしめた。
「ねぇ、先生、いつものお願い……」
顔を上げた斗真は、今までの小生意気な顔ではなく、潤んだ瞳と軽く紅くなった頬で恥ずかしそうにつぶやく。
「わかったよ。でも、今日は……」
真崎が冷静に、斗真の小さな顎をくいっと持ち上げると、震える唇に優しく自らの唇を重ね合わせた。
「今日はここまでな」
数秒間、優しく、それでいて熱のこもったキスを終えると、惚けた表情のままの斗真にそう告げた。
そして、こくりと小さく頷くと、彼の手をとって立ち上がらせ鞄をもたせた。
ぽふっと肩に寄り添うに体重を預ける斗真、その柔らかな髪に手を乗せてポンポンと優しくなでた。
「そ、それじゃあまた今度」
「あぁ、待っているよ。今度こそしっかりと聞いてくれよな」
何も反応することなく、体から離れ歩き出した斗真の背中を黙って正輝は見つめていた。
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どうも! 最後までお読みいただき、ありがとうございます。
実は、初めてBLを書きました! ぱっと思いついた物語ではございますが、この二人の長編のプロットが手元にありましてね……。
こんな感じの物語は需要があるのか、どうか、不安でまずは短編で掲載いたしました。
もし、ご意見などいただけると幸いです。
作者は男ですが、男性目線での描かれかたなど、何卒皆様のご意見お待ちしております!
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