episode 1

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【ka*na*mi/沖瀬美波】 「う……うそでしょ……!?」 教室に足を踏み入れて、黒板に貼られた自分の席を確認した私は、思わず口に出してしまった。 入試の首席を奪われた、あのにっくき“磯山大洋”と、同じクラスでしかも隣の席、ですって……!? ぎぎぎと首を回して実際の席に目を向ける。 うわ、もう座ってる…… 磯山大洋は、背筋をピンと伸ばして、何やらスマホの画面を眺めている。 余程の鈍感なのかしら。周りの女子達からの熱い眼差しや黄色い声には、気づきもしていないみたいね。 はぁ……私の高校デビューも散々! 朝5時起きでバッチリキメた髪型もお化粧も、 三枚重ねのブラパッドも、 もしかしたらラブロマンスがあるかしら♪なんて淡い期待も、全部無意味だったわ…… ため息をこぼしながら自分の席に荷物を置く。 それに気づいた磯山大洋が、私に視線を向けた。 「と、隣の席の沖瀬です。よろしくね……?」 ひきつる顔でそう言うと、「あぁ」と素っ気ない一言が返ってきた。 あぁ。……それだけ!? 心のなかでムッキー!と悲鳴をあげる。 どうせコイツは2位の私のことなんて、知りもしないのね。 チラッと見えたけどその丸い緑色の待受画面何よ! カビ!?あーやだ、きっと変なヤツなんだわ! ちょっと顔が良いからって!ちょっと顔が…… 顔…………結構、カッコよかった……わよね……? 無表情の横顔をちらりと見て、慌てて前に向き直る。 ち、違う!ドキドキしたりなんか……! ブーブーブーと鞄の中のスマホが震える。 メッセージの送り主はお兄ちゃん。 “西園寺の館”の有料版アプリ、“西園寺の別館”の打ち合わせを……って、もう! 今それどころじゃ無いんだってばっ! ……って、あら…… 入学式で目があったあの男子生徒。あの人も同じクラスだったのね。 あ……!思い出した! 春休み中、たまたま道ですれ違ったお婆さんが、荷物を抱えて大変そうにしていたから家まで運ぶのを手伝ったんだけど、その時に家から出てきた赤い髪の…… 風貌は変わってるけど、あの顔はきっとそう! 「ばあちゃんを助けてくれてありがとう」って何度も頭を下げてくれたのよね。 ヤンキーみたいな見かけによらず、お婆さん思いの優しいお孫さんね、と思ったけど…… 同じクラスになるなんて、世間って狭いわね。
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