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邂逅
十日後。
「おっはよー、弥生。本当にもう大丈夫なの?」
「おはよ、日奈。うん、もう全然大丈夫だよ。ただ薬は毎日だし、通院もずっと続けなきゃだけどね」
水越日奈。私の高校時代からの友達だ。
前日、今日から復帰することは伝えてあったが、やはり心臓移植という大きな手術を受けて一週間ちょっとで復帰することに驚いていた。
「やっぱり何か違和感とかあったりするの?」
「うーん・・・人によるのかもしれないけど、私は移植しましたって言われなかったら気付かないレベルだよ」
「へー、そんなものなんだ。医学の進歩に感謝だね」
全くその通りである。いつ頃から心臓移植というものが一般的に可能になったかわからないが、今より2、30年早く生まれていたら助かっていなかったかもしれない。
昼休み。午前中の授業を問題なく終えて、二人でお昼ご飯食べたあと部室へ向かう。私と日奈が所属する、サブカルサークルの部室だ。
二人とも漫画、ゲームが好きということでこのサークルに入ることをすぐに決めた。
「お久でーす」
せいぜい十日ぶりだというのに、ちょっとした緊張感があった。
「あれっ?水無月さん!?もう大丈夫なの!?」
「・・・え、水無月さん!?」
同じ一年の中野君が言葉を発したのを皮切りに、中にいた人達が同じように心配してくれる。
「うん、大丈夫だよ。皆心配かけてごめんね」
「弥生ちゃん、先週の週刊プリズム取っておいたよ。あっちに今週分と合わせて置いてあるからね」
「えっ、あ、朝倉先輩ありがとうございます!」
私が毎週欠かさず読んでいる漫画雑誌だ。
大学に来るまで普通に生活できるようになるのか不安があったので、楽しみなことはあえて考えないようにしてきた。なのでこうしてありふれた日常に戻れることが、とても幸せなことなんだと改めて思い知らされた。
「ねえ弥生。漫画はいつでも読めるんだから、ゲーム一緒にやろうよ」
「うん、いいよ」
すぐに読みたい気持ちもあったが日奈の言うことももっともだ、と二人同時にプレイできる協力型ゲームを始めた。
「ふふ・・・」
プレイを始めてすぐに、日奈が微笑交じりに声を漏らした。
「?」
私が無言で不思議そうに視線だけ送ると、日奈は言葉を返した。
「あ、えとね・・・。こうして当たり前みたいに一緒に遊んでた時間が、かけがえのない時間だったんだなあって」
「・・・」
ゲーム画面そっちのけで、顔ごと日奈のほうを見つめる。
自分と同じようなことを思っていてくれた。嬉しさ、恥ずかしさ、驚き、色んな感情がごちゃ混ぜで、なんて返せばいいのかすぐに思い浮かばない。
すると言葉を探しているうちに、日奈は言葉を続けた。
「あ、あはは。こういう事を言葉にするのってやっぱり恥ずかしいね」
「・・・ううん。ありがとう、日奈」
「ほ、ほら弥生。ゲームに集中集中!」
日奈は恥ずかしさを誤魔化すように、まくし立てて言う。
その後も存分にゲームを楽しんで昼休みを終えた。
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