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「本当は、優斗が寂しいんじゃないのか」
「……は?」
背もたれに肘をつき、真顔でこちらを見上げる松本さんに絶句した。
「な……なんで俺が」
「ほら、その顔だよ。図星を突くなって言いたげなしかめっ面が証拠だ」
「して、してません! 俺は別に……」
「俺は嫌だけどなー。お前と離れんのも、陸がいないたった1人の生活になんのも」
「……」
どうして……そんな事を。
胸の奥がゾワッとして、その場を立ち上がった松本さんの服袖を掴んだ。
「何? どうした」
「いなく……なる、んですか? 松本さんは」
一瞬感じた妙にリアルな静寂が怖かった。
だがそれは、松本さんが微笑んだことによって取り越し苦労となる。
「ちょっと休んだ方がいいぞ、お前。今日は神経が過敏になってるんだろ。俺が今ここを離れるメリットあるか?」
「え……でも、さっき」
「少し落ち着け。人間、気を張りすぎると突然ネジが外れたようにバカになるからな」
「誰がバカですか……」
でも確かに、否定はできない。
どうしてか情緒が安定してくれない。
いつもの事ではあるにしても、最近色々ありすぎたんだ。
もう少し気楽に考えていよう。
____
翌日、昼出勤の俺は請求書類の封筒をまとめてポストに投函し、事務室に戻って明細書を作成していた。
松本さんが隣にいなくても死ぬわけじゃない。
それを自覚したことで、妙に安堵している。
「椎名君、もうすぐで年末だけど調子は良くなってきた?」
「調子、ですか? 風邪とかは引いてないので多分元気だと思います……」
「多分って、ふふ。不思議ねえ、なんだか最近の椎名君はフワフワしていて可愛いわ」
「へ?」
クスクスと笑いながら事務室を出ていく美里さんを呆然と見送った。
フワフワって……
俺はまるで中身もない会話をしていると。
「嘘だろ……俺そんなキャラだったっけ……」
「最近の椎名君はフワフワしていて可愛いわね〜っ」
「…………」
隣に腰かけてきたドヤ顔の男をしばきたい。
というか。
「不良かよ。髪染めたのか、浅木」
金髪に近づいている浅木の髪色。
確か髪染めは大丈夫だと聞いていたが。
「成人してるのに髪染めたら不良なの。そりゃ、あきまへんな」
「誰だよ……」
「でもでも、椎名だって染めてるじゃーん」
「俺は地毛だから。別に染めたいとも思わないし」
「え、嘘っ!? これ地毛なの! 羨ましいなぁっ!」
仕事中だというのに、男子高校生の昼休憩の風景が浮かんできた。
浅木はリアクションがいちいち大きい。
「すっげー……だからいつ見ても綺麗な髪の色してんのな。へえ〜、椎名はハーフかぁ」
「おい、想像力どうなってんの」
「なんかおれ……椎名がどんどん綺麗になっていくのは複雑だな。嬉しいけど!」
「…………あのさ、1人でそんな勝手に盛り上がられても全然話についていけない」
浅木との会話は、陸と話す5倍難しい時がある。
俺の頭が固い故なのか……?
「だって、どんだけ綺麗になったっておれには手の届かない存在になっていくだけっていうか……松本主任と並んでるのが一番しっくりくるっていうか」
「……」
「…………ああ! もちろん友達として、だけどさ!」
「そんな釣り合ってもないだろ、俺と松本さんは。大体、比べるスケールがデカすぎるんだよ」
いつまで経っても、松本さんの隣にいる自信が持てない。
どんな顔も好きなのに。
ずっと一緒にいたい人なのに。
憧れている気持ちも強くて、こんな自分で大丈夫かと不安になる。
「……椎名はすーぐそうやって自分を下げるよなー。松本さんは凄い人だけど、椎名だって色々凄いのに。てか、そもそも恋愛は釣り合うとかそういう問題じゃないし!」
「…………」
「___へいへい、恋愛の話は一旦後にしろー」
「ッ!!」
背後からの声に俺も浅木も飛び上がる。
振り返れば、宴会用のタキシードを着た松本さんがこちらを見下ろしていた。
「松本主任! 相変わらずタキシード姿も超かっこいいっ!」
「それはどうも。浅木、バックのテーブルにロールケーキを置いてるから食っていいぞ」
「本当ですか! やったぁ! いただきますっ」
松本さんの整った顔。
スーツもタキシードもカジュアルな服も、何を着ていてもかっこよく見えてしまう。
それにスタイルも良い。
今さらだけど……松本さんって、ハイスペック過ぎないか?
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