初心に戻って

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陸が小夜さんの家にいる今夜は、俺と松本さんの2人きりだ。 19時に帰宅し晩飯の作業に取り掛かっていると、風呂上がりの松本さんがキッチンに顔を出す。 「あ、今日は油淋鶏にしました」 「おう、すげー旨そうじゃん」 言いながら手を伸ばす松本さんの動きを見逃さなかった。 寸前でつまみ食いを阻止し、ため息をつく。 「行儀悪いです」 「……」 濡れた髪から滴が垂れて手のひらに落ちる。 息が詰まりそうなほど近い距離に心臓が締められ、目を逸らした。 「っ……後で、たくさん食べれば良いんですよ」 「優斗」 「なんですか……ちょ、触らないでください」 妙にイヤらしい手つきで腰に触れてくる。 俺が抵抗しようと、首筋から腿まで舐めるように動く手にビクビクと反応してしまう。 「やめ……どう、したんですか」 「……」 「松本さ……ひっ……!」 耳たぶを甘噛みされた途端、ゾクッと下腹部が疼く。 なんで、何も言ってくれないんだ……っ 卑猥なリップ音が耳に響き、掴んでいた菜箸を落としてしまった。 「ッ、ん……」 耳を舐められているだけなのに、性器が熱くなり呼吸が苦しくなってくる。 松本さんは終始無言のまま首の付け根に舌を這わせてきた。 「っ! や……ん、ふ……松本、さん……ご飯、作れな……っ」 「はぁ…………優斗はマゾだな」 「! 違っ……そんなんじゃ……」 ふ、と笑みを浮かべる松本さんに頬が紅潮し、冷蔵庫の影に逃げ込んだ。 「なっ……なんなんですか、いきなり」 「何って、つまみ食い」 「……変態、ですか。松本さんのだけ、夕飯作りませんよ」 「へー。うめえなぁ、これ」 「!」 どさくさに紛れて……! 慌てて飛び出し手を掴んだ瞬間、俺は強い緊張感に襲われた。 松本さんは口で言っただけでつまみ食いなどしていないし、なんなら火をつけてフライパンを温め始めただけだった。 「…………」 「何?」 「なに、も……ないですっ」 手を掴んだのは自分なのに、心臓がバクバクと激しい音を立てる。 最近本当におかしい。 松本さんと居ればいるほどこの手に触れられなくなっている。 なんでだよ……なんで。 「そっち、油取って」 「え、あっ……はい」 何事もなかったような態度に合わせようと、平常心を保ちつつ油を渡す。 こんな心情、バレたくない。 油を受け取った松本さんはあくまでいつもの顔で、そっと胸をなで下ろしたはずだった。 「顔、赤いぞ……優斗」 「____」 耳元で囁かれた確信犯のイタズラ。 瞬間ドキッと心臓が跳ね上がり、反射的に松本さんの足を踏みつけた。 「痛゙ってえ!」 「っ、は……ざまあみろ」 「あ? おいコラ、キスで窒息させんぞ」 顎を掴まれ、愛おしい男の顔にこれでもかと胸を締め付けられる。 あり得ない……こんな、好き以上の。 「どうして最近妙にイライラするのかようやく分かりました。俺は松本さんが嫌いみたいです、かなーり!」 「ガキか。俺が好きで堪んねえからいつもエロい顔して俺を誘ってんだろ」 「あーはは、都合のいい頭ですね。脳みそついてますか? 誰があんたみたいな変態誘いますか! ゲイじゃないなんて言いながら、ゲイの俺にいつも欲情し__」 言いかけた時、視界が突然宙を舞い天井が映し出される。 「へ……?」 背中が冷たい。 手の自由も、冷たい床に固定されている。 目の前には松本さんの顔があって、初めて押し倒されたのだと自覚した。 「ッ! こんな、所で……何を」 「するだろ……好きな奴がこんなに近くにいて、欲情しない男がいるかよ」 「っ、松本さん……」 「抱かせろ、優斗……」 「っ」 余裕のない松本さんの掠れた声が俺の性感帯を刺激し、脳へ信号を送る。 この声だけで果ててしまいそうなほど疼く性器に触れてほしくて、自ら腰を浮かせてしまった。
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