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それからも陸の要望を聞きながら写真を撮っていれば、気がついた頃には十数枚を超えていた。
どれも満面の笑顔で癒される。
季節外れのパンプキン人形が陸と良い相性だ。
「陸、そろそろ事務所の方に戻るよ」
「ゆきネコにバイバイする!」
宴会場へ向かったゆき猫の元に駆けていく陸を見つめていると、宴会予約センターから出てくる見覚えのある人影を見つけた。
…………え?
パンツスーツに身を包んだショートヘアの女性。
心臓がドクッと嫌な音を立てる。
違う。見間違いだ。
こんな場所にいるはずがない。
気のせいだと彼女に背を向けてフロント横のパンフレットを意味もなく手に取った。
陸、早く谷口さんと戻ってきてくれ……!
「あなた、椎名優斗さんですか」
「ッ!」
背後からの声に肩が震え、振り返ることができない。
男達に襲われた過去が蘇る。
「…………椎名さん、ですよね。名乗る必要もないかもしれませんが、田沼弥生です」
「……何の、用ですか。どれだけしつこく求められても、陸を渡す気はないですから」
自分でも驚くほど冷たく言い放ち、目も合わせずにその場を立ち去ろうとした。
「待ってください!」
「……」
「……私に陸を育てる権利はありません。自分の都合であの子を傷つけた、それは事実です。こんな事を言う資格もないかもしれませんが……あなたにずっと謝りたくて」
「何を……」
予想外の言葉に眉根を寄せてしまう。
今さら何だと言うのか。
松本さんとの関係の障害には全て、この女が絡んでいる。
謝られたからと言って許せるかと問われれば難儀な話だった。
「____私は数日前まで、とても歩ける状態ではありませんでした」
人目のつかない廊下に移動し、疑念を持ちながら耳を傾けた。
松本さんならきっと話も聞きたくないと突き放すだろうが、俺にはできなかった。
「精神状態が不安定で、病院で処方された薬がないと起き上がるのも困難でした。……その要因は、亮雅や陸、そして椎名さんへ危害を加える父です」
「っ……」
「もちろん、謝罪してどうかなる問題ではないです。私が望んでいないことも、父は娘の為だと……私の体調不良の原因まであなた達のせいにして怒っていた父が、これまで椎名さんにしてきた事は決して許されることじゃありません」
「…………」
鼓動が加速して息苦しい。
「本っ当に……申し訳ございませんでした」
腰を垂直に曲げた彼女は、以前見た鬼のような女性には見えない。
病で少しやつれたせいなのか。
それとも……
「……亮雅から、聞きました。椎名さんは陸を我が子のように可愛がってくださっていると。私は陸に厳しく当たるばかりで、あの子を何度も泣かせてしまっていたのに……ありがとう、ございます」
「田沼さんの為じゃ、ないので……俺は陸を誇りに思っています。血縁がなくとも愛するのは当然です」
「……そう、ですよね」
顔を上げた田沼さんの頬には涙が伝っていた。
どれだけ後悔しても、一度失った時間や宝物は戻らない。
同情することもできないし、陸を譲るなんて以ての外だ。
「私事ですが……父とは縁を切りました」
「…………え?」
「耐えかねていたので、父の元を離れて暮らしています。椎名さんにも手を出さないよう何度も言ってあります。本当にすみません……」
縁が切れたからと言って何もしてこない確証はない。
だが、それを聞いて鉛の乗っていた肩がスっと軽くなる。
できればもう二度と会いたくない。
あの男には。
彼女が立ち去るまで、俺の心臓は何かに衝突したような衝撃を受けていた。
「……」
ずっと緊張感が拭えない。
事務所へ戻る途中に名前を呼ばれた気がして振り返ると、宴会仕事を終えた松本さんが立っていた。
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