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「____見てみろ、これ。お前がここに来たばかりの時だろ」
早めの夕飯も終え陸が眠ってしまった頃、松本さんと2人ベッドに寝そべって他愛もない話をしていた。
スマホの画面には、俺と陸がバスタオルを畳んでいる写真が写っている。
「……いつの間に撮ってたんですか」
「さぁな、寝相悪いし俺」
「寝ながらこんな写真撮る人いませんから……」
まだどこか、よそよそしさが見える。
陸も少し俺と距離があって、俺自身は全く子育てが分からず苦い顔をしていて。
あの頃、こんな顔してたんだな……
「なんか、機嫌悪そうですね……俺」
「いつもこんな顔してたぞ、優斗は。ロボットみてえに棒読みだしな」
「……」
「今はまるで別人だ」
「……変わってないですから、別に」
隣で眠っている陸を抱き背を向ける。
褒め言葉がいつも直球だ。
恥ずかしいようなむず痒いような気がして、結局こんな態度しか取れない。
「……感謝は、してます。色々」
「ふっ……俺もだよ」
俺の頭をなでる手が愛おしい。
出会った事で経験してきた辛い日々も、出会わなければもっと楽しくなかっただろう。
大事にしたい、この時間も。
「スノフェス、大物アーティストが結構来るらしいぞ。陸は歌も好きだからな、喜ぶだろ」
「そうなんですか。……あの」
「なんだ?」
「……いえ、なんでも」
思い出なんて馬鹿みたいだと思っていたのに、この3人でいる時間はたくさん写真を撮りたい。
いつまでも残しておきたい。
馬鹿、だな……俺。
「なんだよ、頼みなら聞いてやるぞ」
「……」
「優斗」
「っ! ちょ……陸がいるのに、どこ触って」
衣服の中に滑り込んできた手が胸元をまさぐる。
赤面する顔を隠して松本さんの腕を掴んだ。
「何も言わないからだ」
「こ、こんな事言ったって何もならないからです」
「良いじゃねえか、利益がなくても。たまには本心を聞かせろよ」
「…………笑いませんか」
「笑わないぞ」
仰向けになると松本さんと視線が交わり、心臓の鼓動が早くなっていく。
慣れない分、1つ1つ言うことさえ難しい。
「……写真を、撮りたいです。思い出用に」
浅木なら簡単に言いそうな事を躊躇して言えば、松本さんは案の定フリーズしてしまった。
焦らしておいてこれだから当然だ。
穴があったら入りたい……っ
「ブフッ……」
「なに、笑ってんですか! さっき笑わないって……」
「はははっ、悪い……想像してたより可愛い事を言うからだよ」
「っ……真面目に、言ったんですけど」
「それくらい、いくらでも撮ってやるよ。そんな遠慮して言うことじゃないだろ?」
まだ笑っている松本さんを蹴りたい衝動に駆られる。
「何、写真撮りたいって言いづれえの?」
「…………そんな、男子高校生みたいな頼み事、恥ずかしいじゃないですか」
「なんだそれ」
上体を起こして顔を背けるものだから、一瞬呆れられたのかと思った。
だが、手が伸びてきてされるがままに起き上がれば、優しく唇を重ねてきた。
「んっ……」
握られた手が熱くて溶けそうになる。
「……お前、本当に可愛いな」
「か…………もういいです、俺は寝ます」
「はは、素直じゃねーの」
こんな幸せ、聞いてない。
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