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年が明けて数日、大掃除も終わり3人で過ごす日々ももうすぐ1年を迎える。
意外と早かったな……
「松本さん」
「亮雅さん、とは呼ばねえのな」
「……ノリで言わないと、できないです」
「ノリで言ってたのかよ。ま、良いんだけど」
年明け初めての幼稚園に陸を送り、松本さんと2人で車に乗り込む。
普段は音楽を聴くタイプではないが、なぜか聴きたくなってCDを再生させた。
「この歌、誰の好みなんですか?」
現代人と言えばPOPや邦ロックの印象が強いが、松本さんの車で流れるのはバラード曲が多い。
それも若干病んでいるような。
「これかけると陸が寝るんだよなぁ。あいつと俺の好みだ」
「男性なのに、声が綺麗ですね……」
「男性なのにって、それ偏見だろ。なんなら優斗に似てんぞ」
「え……似てますか?」
「あぁ、だから買ったってのもあるが」
「……」
この人、どんだけ俺の事が好きなんだ……
こんな奴なのに。
まるで悪いことをしているようで徐々に落ち込んでくる。
松本さんの純粋な気持ちを支配して良いのか……この俺が。
「なに落ち込んでんだよ。地味に傷つくんですけど」
「いえっ、これは何と言うか……罪悪感が」
「意味が分からん。ちょっと待ってろ」
コンビニに着くと車を停め、エンジンをかけたまま店内へ行ってしまった。
好きな気持ちが増えるほど怖くなる。
こんなの、慣れてしまえたら楽なのに。
また松本さんを困らせてしまったかと思うと自己嫌悪に陥りそうになった。
コンビニから出てきた松本さんは第三者目線で見ても背が高くてイケメンだ。
それこそゲイじゃなくても惚れる男がいそうなほどで。
「おかえり、なさい」
「……泣くなよ?」
「泣きませんよ。なんでいきなり」
「お前の泣き顔はマジで苦手なんだっつの。何言ってもクソ真面目だしな」
はい、とホットレモンを渡される。
「……すいません」
「何に対して」
「俺……鬱陶しいですよね、ネガティブだし口悪いし弱いし……」
「病んでんのか? 傍に置きたくて一緒にいんだから喧嘩してナンボだろ」
「……」
格好悪いところを見せたいんじゃない。
なのに、体は言うことを聞いてくれやしない。
どうして俺はこんなにも駄目な人間で……
「……あのなぁ、優斗。人間はどう頑張っても完璧じゃねえんだから、自分の願望だけ考えて行動すりゃいいんだよ。他人目線で考えるな」
「はい……」
「口開けろ」
どれだけ俺が弱音を吐こうと、松本さんは否定してこない。
そのおかげでスっと心が軽くなるし、いつもそれに助けられている。
「……美味しい」
「美味いもん食って寝てりゃ、そのうち忘れるから安心しろ」
「そう、ですね」
彼氏を通り越して父親みたいだ……
恥ずかしさに窓へ寄りかかり、ホットレモンを口にした。
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