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____美味しそうな匂いがしている。
チャーハン……かな。
松本さんの事だから、天津飯になって出てきそうだ。
ソファで横になったまま、できあがる昼食に心躍らせる。
松本さんが作ったご飯なら何でも美味しい。
「優斗、頭痛はあるのか」
「……いえ、それはないです」
飯を作りながら俺の心配って……
過保護のオジサンだな。
実際、キッチンからリビングは見渡せるようにはなっているが俺の声が届いているかは定かじゃない。
背の低いテーブルに置かれたシマエナガを手に取って、暇つぶしに手のひらへ乗せた。
「お前は可愛いなぁ……鳥だから、か」
真っ白な羽毛に包まれた鳥。
親指程度しか肉がなさそうだが。
「ふふ、食べたくなる気持ちも……分かるかも」
「……そうやって素直になってりゃ、もっと可愛いのによ」
「ッ!!」
背もたれに腕をついた松本さんと目が合って、一瞬時が止まった。
顔全体が熱くなり思わず起き上がる。
「っ……何、見てんですか」
「見せてんじゃないのか」
「誰がっ……見なかったことにしてください」
「無理」
「殴りますよ……?」
「顔真っ赤」
殺意が湧いた。
あんな姿を見せるはずじゃなかった。
むしろ軽率に死にたい……
「顔隠すなよ。可愛いんだから」
「可愛くないです。というか、男に可愛い可愛い言いすぎなんですよ」
「かっこよくはねえしな」
「……」
ですよねえ……
自分で言っておきながらダメージが重く来た。
男なのに男らしい事をした記憶が今までにあったのか。
いや、絶対にあるだろ。だって男だぞ。
男……
「…………俺がもし女だったら、松本さんはもっと嬉しかったですか」
「は?」
隣に腰かけた松本さんの顔を見れなくて、手の中にいるシマエナガを見つめた。
「イフですよ、もしもの話で……元々、松本さんはノンケじゃないですか。俺が女で、あの職場に入社していたら好きになっていたと思いますか」
こんな変な質問をしてしまうのもきっと疲れているせいだ。
そういう事にしておきたい。
「さぁな……そんなの分からん」
「え……」
「性別でお前を選んでんじゃないだろ。例え男だろうが女だろうが、好きになってたんじゃねえの?」
「っ……そう、ですか」
「まだ気にしてんのか」
話すべきなんだろうか。
松本さんは多分、受け入れてくれる。
負担になるのは嫌だったが、ここで話さなければ隠しごとをするようになる。
「……母から、電話があって。謝られたんです。普通の男で産んであげられなくてごめんって」
「……」
「俺はやっぱり、世間体からすれば普通じゃないんです。だから俺と付き合うことで松本さんまで普通じゃなくなる……それが、嫌で」
「他人の思う普通じゃないとダメなのか?」
「へ?」
「普通だ異常だってのはあくまで他人の主観だろ? その意見が尊重されるなら、優斗が自分自身を普通だと思えばいいんだよ。他人からすれば、優斗や俺も"他人"でしかないからな」
その発想はなかった。
だから松本さんは同性愛でも堂々としていられるのかと、妙に納得する。
「そろそろ飯食うぞー、イスに座ってろ」
「……はい」
ノンケはもっと冷めた人間なのかと勝手に思っていた。
陸の笑顔を、また見たいな。
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