諭吉は何しに屋外へ?

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諭吉は何しに屋外へ?

「家出した、匿ってくれ」  どうも、植木鉢(現在は土しか入ってない)の僕です。ベランダで毎日まったりひなたぼっこしてます。  そんな僕のところに、唐突に据わった眼をしてやってきた人……人?がいます。福沢諭吉さん――じゃなかった、一万円札君です。  えっと、ご主人様の財布の中にいるはずの君、何で今こっそりベランダにいるんでしょーか。 「……ていうか、君一番家出したらダメな奴じゃないの?」  僕は呆れて告げます。 「ちょっと前にご主人様がウッキウキで銀行から下ろして来た子でしょ、君」 「おう、よく知ってるな」 「うちのご主人様、もうめっちゃ煩いから、独り言」  そうなのだ。ワンルームマンションで一人暮らししているOL(二十八歳、腐女子、彼氏いない歴=年齢)は、とにかく独り言が煩いことで有名である。あと、結構僕みたいな植木鉢を相手にぐちぐちと愚痴を語り続けるちょっとアレな人でもある。いやほんと、花咲いてる時ならともかく、土しか入ってない植木鉢抱えてぼやくって完全に危ない人だと思うんだけども。  そのおかげで、僕は結構ご主人様の現在の状況を、他の仲間よりもよーく知っているのだ。基本的に推しに貢ぎすぎて万年金欠ということも、ピンピンの綺麗なお札である彼が恐らく先日のボーナスの一部であろうということも。 「昨日、ご主人様が財布覗いて“お金がない!”って大騒ぎして家の中ひっくり返してたじゃん。あれ君が原因でしょ。タンス君も机君も電話君も大迷惑してたよ。早く帰ってあげなよ、また僕が長々愚痴を聞かされる羽目になるじゃん」  呆れて僕が告げれば、嫌だ!と彼は全身をぶんぶん振りながら言った。  あのやめて、まじでやめて。今日そこそこ風が強いから、吹き飛んじゃったらほんと洒落にならないからやめてください、ここベランダなんでほんと! 「ふん、どうせ俺がいようがいまいがあいつは年がら年中“金欠だから”って騒ぐタイプだろうが。何万もの人の間を行き交ってきた一万円札の俺様は知ってんだ」 「はい、嘘つかないの。君ほぼ新札でしょ、そんなにいろんな人のところ行ってないでしょ、ピンピンで綺麗なお顔のくせに偉そうにしないの」 「うっさい、いらんとこツッコミすな!」 「メンドくさいなもう……何がそんなに気に食わないのさ。僕としては、このまま突風が吹いて君がどっかに飛ばされないかどうか気が気じゃないんで早く室内に戻って欲しいんですけど」
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