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 繁華街のありふれたテナントビルの前で足を止め、ポケットの案内状と答え合わせする。「第3ムラコシビル」、ビンゴだ。  エントランスの壁一面に入居店舗名が並ぶ中、5階の看板の上に貼りつけられた、プラスチックの白板が目立つ。左右をガムテープで止め、今夜の集まりの名称がマジック書きされている。  【本日貸切 M市立第四小学校 六年一組 同窓会ご一行 様】  エレベーターのドアが開くと、甘ったるい残り香が滞留していた。かつての女子どもも、そんなお年頃なんだと苦笑いが浮かぶ。 「よお、デラ()、久しぶり!」  紺地に白で大きく店名がプリントされた暖簾を潜ると、入り口で、出席者と名簿のチェックをしていたラガーシャツの大男――下田(しもだ)が相好を崩した。  『デラ雄』――俺の名前、小野寺雄二(おのでらゆうじ)寺雄(・・)の部分を抜き出したあだ名だ。当時はともかく、27にもなって、このあだ名はいただけない。 「おう、その呼び方やめろよな、シモッチ」 「うわ、やり返されたわぁ」  ゲラゲラ大袈裟な笑い声は、15年前と変わらない。変わったのは見た目で、記憶の中の彼は色白でぽっちゃり小太りの少年だった。それが、どうだろう。上京してスカしたキャンパスライフとやらを過ごした彼は、すっかり日焼けして引き締まった好青年になっていた。  彼が幹事をする、という事前の知識がなければ、笑い声を聞くまで顔と名前が一致しなかったろう。
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