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「で、どういう心境の変化なわけよ、安奈」
再び、ファミレス。注文が届くまでの間に、メモを広げてガリガリと書いている私を見て、里佳は眼を丸くしている。
「最近急に、サークルに顔出すようになったじゃん。先輩達の文才に嫉妬してやる気なくなったーってぶーたれてたの何処の誰よ」
「嫉妬してるけど、嫉妬してもしょーがないことに気づいただけ。努力してないんだから、そもそも追いつけるはずなんかないってわかったってだけ!」
「ほー?」
結局、里佳には“千鶴にも千鶴の事情があったみたいだし、そっとしておこうよ”と言うに止めた。なんとなく、彼女の一生懸命さを、私の言葉だけで伝えきるのは不可能な気がしたからだ。
その代わり、私は昔よりも真剣に小説を書こうとしている。千鶴から聞いた“被災地”の話を元に。そこで、頑張るボランティアの人々と、なくなったものを数えず前向きに生きようとする現地の人達を主役にして。
――自己満足でしょ、わかってる。でもいいじゃん……人間、誰だって自己満足を糧にして生きてんだから。
自分は、彼女のようにボランティアにお金を使うようなことはきっとできない。その代わり、彼女のように頑張る人達がいることを、ひっそりと小説で伝えることはできるかもしれないと思ったのだ。
それが、どこかの賞を受賞するとか、ランキングで大人気になるとか、そういう日の目を見ることなどなくてもいい。ただ誰かひとり、読んでくれた人の心に残ればそれでいいのだ。
それだけできっと、誰かを“救う”ことに繋がれば。私もまた、後悔しないで人生を生きることができるかもしれない、なんて思うのである。
「何かに本気で一生懸命になるってさ、悪くないでしょ。人に裏で影口言われても、自分を貫けるヤツってマジでかっこいいじゃん。私は、誰かさんを見てそう思ったの。そんだけ!」
まだプロット段階の、小説。それでも産まれて初めて、本気で完成させたいと願った小説は――タイトルだけはもう決まっているのだ。
――“だから、私は後悔しない。”
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