だから私は、後悔しない。

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だから私は、後悔しない。

 私の大学の友人、恩田千鶴(おんだちづる)は付き合いが悪いことで有名だった。  私達は同じ文芸サークルに所属しているものの、どちらも殆ど幽霊部員に近い存在である。たまーに気まぐれにサークルに顔出しして、こっそり隅っこで本を読んでいることがあるくらい。  私の場合は、元は作家志望みたいなところがあってサークル所属を決意したものの、周囲の先輩方のレベルの高さに嫌になってやる気を失ったという理由だが。彼女は違う。やる気がなさそうというわけでもないのに、根本的に部に顔を出す頻度が低いのだ。  何か忙しいことでもあるのだろうか?あるいはただ遊びたいだけなのか?いずれにせよ一年生で所属したての頃は、お互いそこそこの頻度でサークルに真面目に参加していたはずだったというのに。  確かなことは一つ。私や友達が、サークルがない日に遊ぶ誘いをかけてみたり、あるいは学校帰りに一緒に御飯を食べて帰ろうなどということを言うと――決まって同じ返事なのである。 『ごめん、私お金がないから……パス』  友達付き合いを大事にしない。空気が読めない。次第に、仲間内で千鶴の評価がそのように落ちるのは致し方ないことであっただろう。  確かに、お金がないからそういうものに参加できない、というのは真っ当な理由かもしれない。実際私だって、お金がないことを理由に友達と遊ぶのを控える時もある。特にお酒が絡む席では、飲み放題を頼んだとしても数千円が飛ぶのは免れられない。最初から人に奢らせるつもりの最低野郎なら別として、多少倫理観がある人間ならば払えもしない飲み会になど参加しないのが無難だ、それは間違いないことである。  問題は、千鶴の場合、十回誘えば九回以上断ってくるということである。  多少お金が乏しくたって、友達付きあい継続させるために参加することもあるのに――何だか損をしているような気分になってしまった私が、彼女に反感を持つのは自然な流れだった。友情はお金で買うものではない。しかし、お金を使えば多少なりに保てるものではあるというのが持論だった。お金がない、を言い訳に断るということはつまり、よほどのケチと思われて嫌な印象を持たれても仕方ないということでもあるのだから。  同時に。本当は参加したくない別の理由があるのに、お金を言い訳に断っているだけなのでは?なんて勘ぐりを受けるということも。 「千鶴さあ、一年生の時はもうちょい付き合い良かったのにね」  同じ学科、同じ文芸サークルに通う友人の里佳(りか)が、ある日のファミレスでぼそっと呟いた。 「なんかあったんかね。親が離婚したとかさー父親の仕事が倒産したとかさー」 「そんなんじゃないっぽいよ、里佳」  メニューの中でも特に安かったオムライスをちみちみと食べながら、私は返した。金欠なのは私も同じである。それでも里佳と御飯を食べることを選んだのは、里佳が愚痴を聞いて欲したがっている気配を察したからだった。
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