だから私は、後悔しない。

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 外食する理由は、友達同士のコミュニケーションを図るに適切だからという理由もある。それを断るということはつまり、相談を聞いて欲したがっている友人を無視するとか、友達同士の対話を放棄することに等しい。私は、それがどうしても我慢ならないのだった。  本当の友達ならば。よほどの家庭の事情とかでもない限り、友達の話は積極的に聞くべきではないのか。多少それで、お金を使うことになったとしても、だ。 「前に聞いたことあるけど、里佳のお父さんエンゲージソフトの社員。あそこ、ゲーム売れまくりで超絶好調でしょ。会社傾いてる気配もないし、リストラされる理由もないし。求人もめっちゃ出してるもんね。離婚もないでしょ、あそこ家族の超仲良し社員の年賀状送ってくるもん、毎年。なんか今年になって家族増えてたしさあ」 「安奈(あんな)が言うならそうなんだろーね。……えーじゃあなんで?マジでわかんないんだけど。ていうか、千鶴バイトもしてなかった?サークルサボって」 「駅前のナックバーガーで働いてんだもんね、あそこ時給かなり良いし。……だから金欠ってことないはずなんだけど、何で断ってくるんだろうね。イミフだわ」  友達の悪口を言い合う、なんて本当は良くないということくらいわかっている。しかも、このファミレスは学校から駅までの間にあるのだ。どこかで千鶴の耳に入らないとも限らない。  それでも、日頃の鬱憤が溜まっていた私達は、歯止めをきかせることができなかった。里佳とのやや悪意のある会話は、どんどんテンションを上げていく一方である。 「ものすっごーく高価な買い物してんだったりして。千鶴オタク入ってるし、推しに貢いでんのかも?」  やや“腐女子”に偏見のある里佳が、悪意のある笑みを浮かべる。実際のところ千鶴がオタクであるという噂があるだけで、本当に彼女がBLなどが好きだと決まったわけでもないのだが。 「あるいは、お金がないってのは言い訳で、私達と遊びたくないだけだったりして。マジ感じわるー」 「出かけたいところがあって忙しいのかね。……お金じゃなくて時間がもったいないのかも」 「あーそれかも。同人イベントーとかにでも行ってんじゃない?」  段々里佳の話が、嫌な方向に向いていく。なんといっても、里佳に内緒にしているだけで、私も結構BLやらなんやらに興味があるオタクのひとりなのだ。偏見があることは分かっていたし彼女も知らないとはいえ、あまり聞いていて気持ちの良い話ではない。  なんにせよ、このままだとどうにも、里佳の中で“千鶴は腐女子で、オタク活動のためにお金と時間が必要で友達関係を蔑ろにしている”で結論がまとまってしまいそうである。なんとかそうではないことを証明してやりたい、という気持ちが強くなってくる私。千鶴のためではない、というのが身勝手だとはわかっていたが。  ずっと興味があるし、疑問に思っていたのは確かなのである。  お金がないわけではないはずなのに、何故彼女はそれを理由に私達との付き合いを断ってくるのだろうか。
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