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やすい、やすい。
財布の中を覗いて、溜息。ああ何度見ても、もう二千円しかお金が入っていない。これで残り半月、一体どうやって凌げばいいと言うのだろう。
僕がそう愚痴ったところ、友人には“嫁に金つぎこむからだろ”とばっさり言われてしまった。全くその通りなのでぐうの音も出ない。ちなみに僕の嫁は、残念ながら液晶の向こう側から出てきてくれない存在である。人気アーケードゲーム“船コレ”に出てくる大和撫子系キャラクター “はるな”ちゃん。清楚な美少女然としている彼女が、モンスターが出現すると華麗に銃を操って戦う姿は芸術でさえある。ついでに、スカートから除く結構むっちりしている太もももとっても眩しいのだ。船コレの古参キャラクターだが、先日ついに浴衣バージョンが実装された。それを拝むため、ついついゲーセンに通いまくり、スロットを回しすぎたのはここだけの話である。
結果。まだ給料日も先だというのに、食費として残しておかなければならないお金にまで手をつけてしまい――財布がとても淋しいことになってしまったというわけだ。ゲーセンは恐ろしい。一回のプレイは百円なのに、その“あとちょっと”を気づけば膨大に繰り返してしまっているのだからどうしようもない。万単位が飛ぶのも珍しいことではないのだ、なんせ一回が少ないせいで殆ど歯止めがかからないのだから。
『言っておくけど澄人。……俺は金貸さねーからな』
親友はあっさりと僕を見放した。確かに、先月もギリギリのギリになって泣きつき、これっきりと約束して助けてもらったのに繰り返した自分が悪いのはわかっているが。だからって、あんな氷のように冷たい目で見下ろすことないではないか。高校時代からの付き合いである友人に対し、なんと冷徹であることか。
――うう、二千円……飯どうするよ。冷蔵庫もすっからかんだってのに……カップメンだけじゃしのげないよー……!
安月給のフリーター。ATMにすがり付いたところで、預金もさほど溜まっているわけではないのである。さすがに、虎の子の五万円は崩したくない。アレに手をつけるのは本当に最後の最後にしたかった。僕はふらつきながらも、春先なのに妙にジリジリとする日差しの下を歩いていた。
今日はバイトも休みだからと朝食もケチってしまい、実は食べていない。さすがに昼ごはんはそれなりに食べないと、空腹で倒れそうである。コンビニのノボリを恨めしく見つつ、辺りを見回していた時だった。
「んあ?」
いつもと違う道を通ったのが功を奏したのだろうか。道路の向こうに、ぽつんと存在する小さな食堂らしき建物を発見した。激安!大盛り豚丼あります!とデカデカとノボリが掲げられている。豚丼いいなあ、でも安いと言ってもなあ――そう思いつつ、車が来ないのをいいことに道路を渡って見た僕は。
豚丼がプリントされた青いノボリに書かれた価格を見て、ひっくり返った。なんと、大盛り豚丼が税抜き百円だと言うのである。
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