やすい、やすい。

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「嘘だろ!?」  これぞまさに二度見。僕はノボリと店を交互に見て、自分の目が間違ってないことを確認してしまう。小さなお店は、入口、駐車場側がガラス張りになっている。ずらっと並んだ一人席では、昼時だからかぽつぽつと丼飯を食っているサラリーマンらの姿があった。  驚くべきは、彼らが食べている丼のサイズ。とにかく、運動部の男子高校生が目を輝かせんばかりの量なのである。スイカを半分に切ったくらいの大きな器に、これでもかと山盛りのお肉が盛り付けられているではないか。それを、サラリーマンはこちらの視線にも気づかずもりもりと美味しそうに食べている。まさかあれが、たった百円だとでも言うのか。 「す、す、すみませーん!」  今ならまだ席にも座れそうだ。僕はひっくり返った声で、中に突撃していた。自動ドアを入ると、すぐに恰幅のいいおばちゃん店員が出てきてくれた。いらっしゃいませー、と景気の良い声で挨拶をしてくれる。 「あ、あの!ノボリ見て来たんですけど……っ!豚丼、百円って、マジ、っすか……!?」 「ええ、本当ですよ。税抜きですけどね」 「なんとー!」  いくらフリーターとはいえ、一応こっちも成人している社会人である。もっと大人として恥ずかしくない喋り方をするべきとわかっていたが――今は完全に興奮が理性を上回ってしまっていた。  僕は喜びと感動のまま席に案内され、メニューを渡されることになる。そして、豚丼は豚丼でも、好きな部位の肉を選んで食べられるようになっているということを知る。あとは味付けも細かく決められるようだ。醤油味、味噌味、塩味などなど。少し甘いワイン風味なんてものも選べると知って驚かされることとなる。  客が少ないからだろう、目を白黒させている僕に、おちゃん店員さんはにこにこと説明してくれた。 「お客さん此処、初めてなんですよね。驚いたでしょ、百円なんて詐欺だと思ったんじゃない?」 「ま、まあそりゃ……」  だってねえ、と僕は、もりもり豚丼を食べている店内の客達を見る。どれもこれも、僕が今まで見たこともないような巨大な丼を抱えて食べているではないか。しかも、よくよく見れば味噌汁とお漬物もちゃんと付いている定食形式。これで百円だなんて、一体どう採算を取っ手いると思うのも当然だ。  もっと言えば、店内の内装もかなり綺麗なのである。ひょっとしたら、オープンして間もないのかもしれない。茶色と白を貴重としたテーブルは目に優しく、非常に清潔感がある。家族連れも安心して来れるようにと考えているのか、子供用の小さな椅子なども隅に重ねて置いてあるのが見えた。同時に、待合席ゾーンでは、子供が退屈しないようちょっとした絵本も置いてある様子である。  とても胡散臭い俗な店、のようには見えない。内装だけ見ればちょっと可愛い印象のファミリーレストランとさほど変わらないのである。 「うち、あたしと旦那、息子と娘の家族経営なんですけどね。元々土地は、親戚からタダ同然で譲って貰ったんですよ。ちょっとした事故物件だったらしくて」  といっても、建物も壊して立て直しちゃってるから関係ないのよね、と笑うおばちゃん。 「でもって、その親戚のツテでね。加工工場で余った豚肉を超絶に安いお値段で売って貰ってるの。すっごく高い、珍しいお肉なのにね。加工の際に余った分はそのまま捨てちゃうっていうから、それじゃあ勿体無いと思って。だから、切れっ端を集めてるといっても高級肉だからすごく美味しいの。味は抜群だって保証するから、じゃんじゃん食べていってくださいね」
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