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地球が、他の惑星と当たり前のように交流するようになって数百年。
異星の科学技術を取り入れたことで、地球の文明は飛躍的に進歩したと言っても過言ではない。タイムマシンこそ今だ開発中だが、長らく夢物語とされていた空を飛ぶソーラーカーも、空間を自由に転移できるワープブロックも、彼らとの交流を得てどんどん開発されていったのである。
同時に、もう一つ地球が手に入れたもの。それが、“地球より下位ランクの異星人”を自由に奴隷にできる権利であった。
どうにもこの宇宙は、“宇宙連邦”という銀河の中枢機関があり、そこが全銀河の生命体が住む星を管理して成り立っていたらしいのだ。長らく宇宙に出ることがなかった地球人はその存在を知らなかったが、地球も一応その枠組みの中に組み込まれていたらしい。そして、彼らによって地球は全ての惑星の中でウン十番目、くらいにランク付されていたらしいのだ。このへんのことは、俺もニュースでざっくり聞いた知識しかないのだけれど。
宇宙連邦とやらのランク付は絶対だ。上位とされた、高い文明や進化の可能性を持つ星に、下位に星は絶対に逆らってはいけないというルールがあるのだという。幸いだったのは、地球がそのランクの中でかなり上位の方に位置づけられていたことと、地球よりもさらに上のランクの星に異星を侵略して我が物にしようとするような攻撃的な星が殆どなかったということである。
地球は異星人達の来訪により彼らの存在を知り、技術を進化させ――下位の異星人という、新たな奴隷を得るに至った。これは、少子高齢化が進む国、特に日本のような国では大層歓迎される結果となったのである。奴隷なんて人権無視だ、という倫理観も――見た目が人間離れしたバケモノ、異星人相手では殆ど働かない。地球人ではないから、醜い外見だからという理由だけで、異星人達は地球で差別され、多くが奴隷としてコキ使われているのが今の現状である。
なんせ、多くの異星人は、人間にできない数多くの仕事をこなすのに適しているのだ。例えば、放射能に非常に強い異星人は、汚染物質の除去や処分に非常に役立つし。熱に強い者は、マグマの吹き出るような火山での観測業務などを全て任せることができる。とにかく奴隷であるから、人件費なるものがかからないのも非常に大きい。今の地球人は、彼らの恩恵にあやかって文明を維持していると言っても過言ではないのだ。もっとも。
――まあ、化物なんぞに感謝してやるつもりもねーんだけどな。
俺のように考えている人間は、きっと少なくはないだろう。そうでなければ、いくら公で開催されているとはいえ、異星人を売り買いするオークションがあれだけ盛り上がることなどないのだから。
万年金欠の俺がオークションに参加し、この青い筒のような異星人をゲットできたのは多くの幸運が重なった結果だった。俺の金欠の理由は、賭け事ですぐ大金を使い切ってしまうからなのだが――この時は、少しだけ当たりを引いたことで、普段よりちょっとだけ多く金があるタイミングであったのである。
同時に。この異星人の価値を知る人間が、極端に少なかったというのが大きい。他の異星人と比べて不人気であったために、比較的安価で競り落とすことに成功したのである。
つまり。食わせたものと同等の価値あるものを吐き出すことができる、という体質を持ったこいつを、である。
「俺が、お前にやって欲しいことは一つ!俺が持ってきたモノを食って、それを同等の金として吐き出せ。お前の惑星は、宇宙連邦とリンクしていて、宇宙の基準価格ってやつをしっかりインプットされてるんだろ?」
「は、ハイ。そうデス……」
「世の中、金が正義だ。金がある奴は何をやっても許される。……クソ真面目に働いて、うぜえ上司に怒鳴られて、あくせく小金稼ぐなんざ馬鹿のやることだ」
ああ見てろよ、と俺は舌なめずりをした。
一生懸命働いていたのに、ちょっと数字が上がらないだけで俺に怒鳴り散らした元・勤め先の上司。ちょっと賭け事が好きで、借りたお金を返さなかっただけで人を罵倒して離れていった元カノ。そして、親の金を使ってちょっと遊んだだけで、馬鹿息子と人を詰ることしかしなかった馬鹿親ども。あいつらをようやく、見返してやる時が来たのだ。
こいつを使って、あれもこれも換金してやるのである。
もうお金がなくて、馬鹿にされる生活とはおさらばするのだ。
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