スクランブル交差点

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スクランブル交差点

* * * 駅の改札をくぐり抜け、茜色に染まる空をビル群の隙間から眺める。 スクランブル交差点。 歩行者専用の信号が一斉に青に変われば、四方八方から押し寄せる、人々の波。その合間を器用に縫いながら、沢山の人が颯爽と歩く。 それを尻目に、ぶつからないよう注意しながら左右に揺れる私は、地方出身者丸出し。 着ている服だってそう。都会に洗練されたものではないし、化粧もそれなり。というより、ほぼスッピン。 高校を卒業してすぐ、私はあの家を飛び出した。離れられるなら、別に何処だって構わなかった。 やれる努力ならしてきたし、これからだって、そう…… 大きく息を吸い込み、一歩踏み出す。 身体の大きな男性の陰に入ったからだろうか。やっと流れに乗れたようで、ぶつかる事無く人とすれ違う。それにホッとし、向こう岸へと向かって歩く。 ……と、突然。その流れが崩れる。歩きスマホをする男性がヌッと現れ、危うくぶつかりそうになった。 「……すみません」 「チッ、」 垢抜けた類のその人は、私をひと睨みしあからさまな舌打ちをした後、視線を再びスマホに釘付けながら通り過ぎる。 「………」 カツカツカツ…… コッコッ…… バタバタバタ…… タッタッタッタッ…… 立ち止まった私を避け、人々の波が通り過ぎる。まるで川の真ん中にある、大きな石のよう。流れを堰き止め、邪魔するだけ。 ……上手く、馴染めない。 こんなに人が溢れ返っているのに……ひとりぼっちの様な錯覚に陥る。 ……ダメだ…… 何度も何度も周りを見渡すけれど、人の顔が手ぶれした動画を見ているようで、認識できない。 速い──。圧倒される。押し潰される…… 私の周りだけ陰影が掛かり、闇の世界に迷い込んだような、おかしな気分。 苦しい──助けて、誰か…… 胸を押さえ、背中を丸めた。 ──幼い頃からずっと、感じていた。 周りに決して、決して溶け込めない……私── 遠くで点滅する、歩行者用の青信号。 人がまばらになり、やっとの事で浅い呼吸がひとつできた───時だった。 プップーッ! 「……にやってんだっ!」 強く掴まれた左手首。それがグンッと引っ張られる。 そうされるがまま、足を大きく前に踏み出す。 頭の中は真っ白で……何が起きているのか、わからない。 繋がれた手の先を辿り……腕、背中、と視線を上げれば、何となく、見覚えのある男性で─── 「……」 細身でスラッと高い背。毛先を遊ばせた、アッシュブラウンの髪。 首筋から流れる風に乗って、清涼感のある香りがふわりと鼻孔を擽った。
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