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憶えてますか?
* * *
「……来てくれて、ありがとう」
煌びやかな世界。
日常とは違う、夢のような空間。
ピシッとスーツを着熟した黒服が、卓から卓へと移動し、捌くように人気ホスト達を誘導していく。
女王様になった気でいる若い女性やマダム達を、新人らしきホストが、四苦八苦しながら笑顔で場を盛り上げている。
異様な熱気と妖しい空気。
溶けてしまいそうな程、眩い照明。
稼いだ五万円を握り締め、初めて一人でホストクラブの門をくぐった。
着る服なんて、何でも構わない。髪も化粧も、どうでもいい。……兎に角、早く祐輔くんに会いたかった。
早く、このお金を祐輔くんの為に、使いたかった──
「……あの……お酒とか、何頼めばいい……?」
「あ、いいって! 果穂ちゃん学生でしょ? 全然大丈夫。無理しないで!」
隣に座る祐輔……美麗が、この上ない程の笑顔を私に見せる。
相変わらず、優しい。
人が良い、というか……
……だから、好きになったんだけど……
「……でも、」
「こうして会いに来てくれただけで、充分嬉しいからさ!」
「………」
嬉しい──その言葉に胸がキュンとする。
ずっと逢いたかった。
忘れた事なんて、一度もない。
小学4年の頃──施設を出る事になった祐輔くんを皆で見送る中、私は遠くから、ただ黙って見ている事しか出来なかった。
何にも伝えられてない……たった一言。あの時のお礼さえも。
「それにほら、俺も未成年で飲めないし……!」
「……あ、」
私の反応も含め、美麗がハハ、と笑う。
キャアー!!
近くの席から、女性の黄色い悲鳴が聞こえた。その直後、ドンペリコールが始まる。
体育会系のノリというか、応援団みたいな掛け合い。手拍子。そして、また黄色い悲鳴。
チラッとそちらを見れば、何人ものホストが客を取り囲んで、派手なパフォーマンスをしている。
何だろう……見ているこっちが恥ずかしい。
その間に、美麗がソフトドリンクを入れてくれていた。
目の前に出されたのは、前回と同じ、オレンジジュース。
……憶えてて、くれてた……?
ドクンッ……と、心臓が大きく跳ねる。
──もしかして、私の事も……憶えててくれて、る……?
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