憶えてますか?

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「……あ、あのっ」 恐る恐る、口を開く。 ドクン、ドクン…… 鼓動が大きくなっていき、中々静まってくれない。 そんな私を知ってか知らずか。美麗が屈託のない笑顔を返してくれる。 「ん、なに?」 「………えっと……この前、施設にいたって話……してくれたよね」 「うん」 美麗が向ける、真っ直ぐな瞳。 くっきりとした綺麗な二重瞼。綺麗なその瞳に、吸い込まれてしまいそう…… 「……もし、」 ああ、もう。……緊張で、指先が震える。 何だか声まで、震えてる気がする…… 「もし、同じ施設出身の子が……お客さんとして、来たとしたら………美麗くんは、嬉しい?」 ″同じ施設だった、川口果穂です。 私の事、憶えてますか?″ ……たった、それだけ。 それだけなのに。どうして、スッと口から出てきてくれないんだろう。 探るような事しか言えない自分に嫌気が差しながらも、そのキラキラした瞳から目が離せない。 綺麗な弧を描いた美麗の唇が、動く。 「……多分、それはないよ」 「え……」 小さく漏れる、声。 それにハッとした美麗が、僅かに見開いた瞳を揺らす。 「……入ってた施設、全然遠い所だから。遭遇率は低いかも。 ……それに俺、施設に入ってたの小学生までだし。もし偶然会ったとしても、お互い解んないと思うよ」 「……」 そっか…… ……そうだよね。 あそこからここまで、気軽に来れるような距離じゃないし。 現に再会しても、祐輔くんは私の事を憶えてなかった、みたいだし…… 「……ていうより」 少しだけ背中を丸めた私に、美麗が続ける。 私を見ながら、私ではない何処か遠くを見つめて。 「俺さ、逃げてきたんだよ。地元から。 誰も俺の事を知らない場所で、イチからやり直したくて。 ……だから、同郷の人とは……会いたくない、かな」 「……」 会いたくない── その言葉にショックを受けながらも、私と同じ心境で故郷を捨てたのかもしれないと思ったら、嬉しくなった。 祐輔くんと、見えない所で結ばれているような気がして。
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