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「……今日はありがと」
店を出て直ぐのエレベーター前まで、美麗が見送ってくれる。
「送りまで指名してくれて」
「……ううん」
エレベーターの下りボタンを押した美麗が、私に向き合う。
「ごめんね。俺ばっかり喋っちゃって。……俺、こう見えても人見知りで、ヘルプ中も聞き役ばっかりなんだけどさ。
何でかな。果穂ちゃんの前だと、……不思議と話せるっていうか……」
──ドクンッ
それって……私、にだけ……?
″特別″って事……?
「………嬉しい」
「え……、ホントに?」
答える代わりに、口端を少しだけ持ち上げ、笑って見せる。
そんな私に目を見開いた美麗が、直ぐに笑みを浮かべた。
「……良かった。今日は笑ってくれて」
「──!」
その笑顔が素敵で……見惚れてしまう。
………好き。
祐輔くんが、好き。
チン、……
無情にも、エレベーターが到着する。
開かれたドアに片手を掛けた祐輔くんが、もう片方の手を私に差し伸べる。
「……っ、」
触れ合う手。指先。
温かな、温もり。
緊張しすぎて、頭がボーッとしてくる。
もっと、繋いでいたい。
もっと……傍に………
「それじゃあ、気をつけてね」
「……あ、」
小さな箱に入った私に、祐輔くんが笑顔で手を振る。
その瞬間に閉まる、ドア。
「……」
しん、と静まり返る空間。
解ける……魔法。
さっきまで繋いでいた手のひらを広げ、そっと視線を落とす。
……でも、この温もりだけは、消えない。
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