見えない境界線

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ブブブ…… 突然、テーブルの端に置かれたスマホが震えた。 手を伸ばし、画面を開く。 ″新着あり″ アプリからのお知らせが、画面の真ん中を占領している。それをタップすれば、ダイレクトメッセ画面が表示された。 《二、ホ別でどう?》 いきなりの売春交渉に、咄嗟に片手で画面を隠す。 恐らく誰も覗いたりなんかしないだろうけれど、バレたら……という不安がそうさせていた。 二は、二万円。 ホ別は、ホテル代別。……つまり、ホテル代は相手持ち。 こういう暗号みたいなのは、多くのメッセを貰ううちに何となく学習した。 そして、二万円が相場より高い事も。 「……」 周りを見回した後、もう一度画面を覗く。慌てて隠した時に、誤操作してしまったのか。自分のプロフィール画面が表示されていた。 そのPR文の中に『処女』という文字。 〈すみません。……もう、処女ではないんです〉 直ぐに返信する。 もしかしたら、処女を求めていたのかもしれないから。 誤魔化さずにきちんと伝えるのは、トラブル防止の為。 断られる可能性は大きい。 だけど、別にいい。──お金ならまだ余ってるし、バイト代も入ったばかりだし。 そんな負け惜しみをしてしまうけれど……本当は、少しでも祐輔くんに貢げるお金が欲しい。 軽く溜め息をつき、スマホを置こうとする。……と。 ブッブッ…… 返信を知らせるバイブ。 《いいよ、別に。ヤらせてくれるなら》 直ぐに返ってくるメッセ。 返信文を打とうとすると、続け様にメッセが届く。 《金額に不満があれば、もっと出すから。……今から、したいんだけど。いい?》 「……」 出すって、どれくらいなんだろう。 先程とは違う感情が沸き上がる。何ともいえない高揚感。 プロフィール画像は、冴えない顔。加えて処女じゃない。──こんな私の、一体何処に魅力があるというのだろう…… 〈どれくらい、出して頂けますか?〉 そこに、自分の価値があるような気がした。 自分を売り物にして、提示される金額でその価値を計るのは間違ってる。そう、頭では解ってはいる……けど…… 緊張して、手が震える。 〈じゃあ、三でどう? ……あ、でもプレイの無理強いはしないから、そこは安心して〉 「……」 三万…… 処女じゃない私に、そんなに出してくれるなんて…… 一体、どんな人なんだろう…… 何となくの興味。 操作をして、相手のプロフィール画面を開く。 HN、はかせ。20代。痩せ型。眼鏡男子。 清潔感のある笑顔の写真からは、女を買うようなタイプには到底思えない。 ……何となく引っ掛かる。 もしかしたら、拾い画像かもしれない。 でも……相手がどんな容姿だろうと、別に構わない。 お金さえ、貰えるなら。 〈……はい。待ち合わせ場所、教えてください〉 そう送信した後、パタンとノートを閉じた。
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