見えない境界線

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バッグを肩に掛け、館内を出る。 次の講義は出たかったけど、欠席しても今の所単位の方は大丈夫。 「……あ、川口さぁん!」 相変わらず清楚な身形をした大山が、私に笑顔で手を振ってくる。 時間潰しに、友達とカフェテラスでお茶でもしていたんだろうか。 「次の講義、出るんだよねぇ?」 「………え、」 相変わらずの、猫なで声。 少しだけ上目遣いをし、大山が両手を顔の前で合わせる。 「良かったぁ……! じゃあ、代返お願いねぇ!」 私の話もろくに聞かず、甘えた声で強引に押し切る。拒否権など寸分も与えずに。 そして蝶が舞うようにひらひらと手を振り、スッと立ち去っていく。媚びたような笑顔を残して。 大山の姿を目で追っていけば、その先には彼女を待つ同じサークルメンバーが数人。キラキラと輝く、カースト上位の人達ばかり。 「……」 その中に、イケメンオーラを放つ安藤先輩の姿が。 他メンバーと談笑していた彼が、此方に顔を向ける。駆け寄った大山さんに気付いたんだろう。けど、その瞳は大山さんを通り越して、真っ直ぐ私へと向けられた。 「……!」 視線と視線が、ぶつかる。 瞬間──スクランブル交差点で助けられた記憶が蘇った。 頭をぽんぽんとされた時の、あの感触や擽ったさまで…… 先輩が、胸の前で軽く手を振る。と、その手を両手で包んで引き寄せた大山が、恐らく上目遣いをしながら先輩に話し掛ける。 ああ…… 何となく、解った。 ……多分、わざと私を外したんだ。 貴女はこっち側に来ないでね。──まるで、見えない境界線を張られたみたいに。 別に、どうだっていい。 私には関係ない。 ……そう言い聞かせて、心が抉られそうになるのを拒む。 立ち位置なら解ってる。あの集団の中に、私の居場所がない事くらい。 ……都合のいい時だけ声を掛けられる事くらい。 くるりと背を向け、講堂へと引き返す。 ……馬鹿みたい。言う事なんて聞かなければいいのに。 そう思うものの、染み付いた性なのか、逆らえなくて。 軽く溜め息をつき、バックからスマホを取り出す。 〈ごめんなさい。急用で行けなくなってしまいました〉 そう打ち込み、送信した。
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