見えない境界線

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纏めたノートを写真にとり、その画像を大山に送る。 と、その直後スマホが震えた。 画面に表示された名前は──『美麗』。 「………はい」 少しだけ震える、指先と声。 心臓が急に活発になって、口から飛び出してしまいそう。 「もしもし、果穂ちゃん? 久しぶり。元気だった?」 覇気のある、祐輔くんの声。 その声を聞いただけで、今まで荒んでいた私の心が、スッと凪になる。 「………うん」 「そっか。良かった。……あれから泣いてない?」 「はは、……泣いてないよ」 「ホントに?」 「うん……」 スマホを通して、お互いクスクスと笑い合う。 ──会いたいな。祐輔くんに。 こんな、電話越しなんかじゃなくて。 じんと痺れて、熱くなる手。 ドキドキと、煩い心臓。 「……あ、そうだ。 急遽決まった事なんだけどね。明日から一週間、うちのホストクラブ全員、猫耳つける事になったんだよ」 「……え、猫耳?」 「うん」 「つけるの? 美麗くんも……」 「ハハ、勿論!」 祐輔くんの、猫耳。 どんな感じだろう。 想像しただけで、可愛い。 高揚が、止まらない…… 「……ちょっと、見てみたいかも」 「じゃあ、来てみる……?」 耳奥を、少し鼻にかかった声が心地良く響く。 電話越しの、祐輔くんからのお誘い。 「………うん」 照れながら答えれば、照れたように笑った声が返ってくる。 「良かった。……俺、また果穂ちゃんに会いたいって思ってたから」 ──ドキ、ン…… 心臓が、勝手に早鐘を打つ。 こんなの、営業トークの決まり文句だって、頭では解ってるのに…… でも……それでも、嬉しい。 祐輔くんが私の事を、少しでも気に掛けてくれたって事だから。
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