正しいことの既に約束された恋

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 神様がパチンと指を鳴らしたみたいだった。前日までは月に衝突して砕け散るから大きな影響はないと言われていた小惑星は、軌道を変えて真っ直ぐと地球に向かった。  俺たちの生まれたばかりの頃、大きな地震が日本列島の半分を揺らした。大津波がたくさんの町と、人と、畑と、そして牧場をさらっていった。三日前、カリフォルニアに落下した小惑星の前触れの隕石が、地球の重力と磁場を狂わせて、大量の牛が、ココナ浜に打ち上げられているらしい。ココナ浜というのは、昔その海岸に漂着した外国人が付けた地名だ。漢字の呼び方もあったはずだけれど、思い出せない。  俺は放課後、部活がなくなって暇を持て余している友人たちと、ココナ浜に牛の死骸を見に行く約束をしていた。ところが昼休みの終わり、午後一番の授業には、予定されていた歴史の先生ではなく、俺たちのクラスの担任の先生が現れて、午後の授業はなくなったので、真っ直ぐと家に帰るように言った。  世界が終わるというので、大人はトイレットペーパーを買い占めたり、政府に意見書をファックスしたり、何かと忙しいのだ。子供は帰って家で静かにしていなさいと、そういうことらしかった。 「今日、どうする?」と、斜め前の席の井上は俺に尋ねた。井上は今日、ココナ浜に行くと約束していた中の一人だ。 「バス、もう走ってないらしいよ」と金田が言った。 そんな俺たちの声が聞こえたのか、聞こえなかったのか、先生は淡々と繰り返した。 「午後の授業はなくなりました。皆まっすぐ家に帰って、自宅で待機するように」 「いつまで?」と金田が声を張り上げて訊いた。 「世界が終わるまで、じゃね?」と井上が野次を飛ばして、アハハ、とまばらな笑い声が上がった。  結局、バスがないので、海まで行くのは諦めた。 「当分、お預けだな」と井上が言った。 「世界が終わるまで?」と俺は言わなかった。
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